Green Raspberry

それは、イオリさん、ティルトさんと一緒に、ウォパル海岸地域の調査に出ていた時のこと。

オルト「ちーっす」

チームの通信回線から、懐かしい声が聞こえてきました。

イオリ「あら、オルトくんこんばんはー。
    久しぶりですねー」
ティルト「ごきげんよう」

この数ヶ月間、実働任務から離れていたオルトくんが、久しぶりに現場に戻ってきたようです。

ミリエッタ「ぁ、オルトくんだ~。こんばんはっ」

現在13歳と、キャストの方を除けば小隊内で最年少のアークス。
私から見ても1つ年下です。
年上だらけのこの隊の中で、気兼ねなく話せる数少ない同年代。
加えて、彼も自分のフォトン感応力の高さに苦しんだ経験を持ち、お互いに苦労を共感できる相手……
だったのだけど。

オルト「チビエッタも元気にしてたか?」

いきなり飛んできた不躾な言葉に、弾み掛けていた私のテンションは急降下。
ああそうでした、オルトくんはこういう子でした。
元気なのは良いけど、その元気が勢い余って、失礼な事も平然と口にする――
言ってしまえば、生意気盛りの男の子なのです。

ミリエッタ「む~、またチビって…!」
ティルト「ふふっ、かわゆいネーミングではないか」

確かに私は小さいけど、年下の彼にからかわれるのは癪に障ります。
ティルトさんがフォローしてくれたけど、納得はいきません。
でも悲しい事に、反論らしい反論は出て来ないのでした。

イオリ「オルトくんは相変わらずですねー
    ミリィさんがかわいいからっていじめちゃダメですよー」
オルト「はぁ!?なんでそーなるんだよ!
    ったくチビエッタは小さすぎて問題外だっつーの!」

なにやら妙な解釈をしたらしい、イオリさんの発言。
その言葉に対するオルトくんの反応が、私に更なる追い討ちを掛けます。
小さ過ぎて問題外だなんてひどい。

ミリエッタ「むむむ~…!
      オルトくんだってそんなに大きいわけじゃないのにっ」
オルト「チビエッタ、そうゆうことは背で勝ってから言うんだな!」

ますます頭に来た私の口から飛び出したのは、精一杯の反撃。
それでも、オルトくんは余裕の態度です。

イオリ「あらあらー」
ティルト「ふふっ、かわゆいやり取りじゃのぅ」
ロウフル「ほんと仲いいよな~あんたら~」

イオリさんとティルトさんは、すっかり傍観者の立場でこのやり取りを楽しんでいるご様子。
チーム回線での会話に、ロウフルさんまで加わります。
もう、別に仲良くなんかないのに…!

ミリエッタ「ひょ、ひょっとしたらしばらく会ってない間に、私の方が大きくなってるかもだしっ」

そんな状況に引っ込みが付かなった私は、何の根拠もない言葉を口走っていました。

オルト「なん…だと」

ところがこれが意外にも、オルトくんの動揺を誘ったみたい?

イオリ「オルトくんはあれから伸びたのかしらー?」
オルト「お、俺も少しは伸びてるはずだぜ!」

慌てるオルトくんの様子に、してやったり、と思ったのですが。

ロウフル「さてさて…どっちに軍配は上がるのやら…
     もしかしたら全く同じで引き分けだったりしてな」

ロウフルさんの声に、とんでもない自爆をしてしまった事に気付かされました。
いつの間にか、実際に背比べをしてみる流れになっています。

ミリエッタ「ぅ…あ、後で比べて、みる…?」
オルト「受けてたつぜ!負けるわけねーし!」

更なる自爆発言を重ねているのは分かっているのですが、もはや後には退けそうにありません。

ティルト「ふふっ、ミリィ殿もいきなり大きくなるかも知れんぞ?」
イオリ「ふふ、そうですねー」
ロウフル「だな、ちっちゃい子はいきなり伸びるからな」

ティルトさん達はそんな話で盛り上がっていますが、なにせ勢い任せで言ってしまった事です。
私自身はここ最近、特に身長が伸びているような自覚は無い訳で……
途端に憂鬱な気分になってきました。


やがて、海岸地域調査のお仕事も一段落。
アークスシップへと戻る時がやってきました。

オルト「ロウフルはあいかわらずでけーな…」
ロウフル「ハッハッハ、男ならでっかくならんとな」
オルト「くっ、いまにみてろよ!」

3番艦ソーンへと向かうキャンプシップの中、チーム回線からはオルトくんとロウフルさんの会話が聞こえてきます。
どうやら、2人は一緒にロビーにいるみたい。
このまま戻れば、オルトくんとの背比べは避けられそうにありません。

イオリ「ふふ、背比べを見にいってみましょうかー」
ティルト「うむうむ♪」
ミリエッタ「ぅー…」

そしてこちらにも、この流れを楽しんでいる人が2人。
私一人が暗澹とした気分でいる中、私たちを乗せたキャンプシップは、遂にソーンへと到着してしまいました。
どうしよう、このまま背比べに臨んでも勝てる気がしない……
でも、あんなに散々言われたのだから、あっさり負けるのはなんだか悔しいです。
そんな風に悩んでいた私の目に留まったのは、荷物の中の一着の服。
あぁそうだ、これなら……!


ロウフル「おう!みんな任務お疲れさんだ」
オルト「おつかれー」
残雪丸「わっ…こ、こんばんは…」
アネモネ「ハロハロー」

ロビーへと戻ると、早速ロウフルさんが出迎えてくれました。
隣にはやはり、オルトくんの姿。
それだけではなく、残雪丸さんやアネモネお姉さんも一緒でした。

イオリ「こんばんはー」
ティルト「ごきげんよう」
ミリエッタ「こ、こんばんは…っ…」

挨拶を交わし、彼らの方へと近づいていく私たち。
スタスタと歩いていくイオリさんとティルトさんに対して、私はゆっくりと。

キャンプシップを降りる前に、私はエーデルゼリンに着替えていました。
スラッとしたデザインが洗練された雰囲気を感じさせる、どちらかと言えば大人向けの服なのだけど……
実はこの服、セットになっているシューズのヒールがとても高いのです。
しかも、いわゆるハイヒールではなく、靴底が平らなウェッジソールと呼ばれるタイプ。
これなら、身長を誤魔化しても気付かれにくいかなって!

とは言え、研修生制服のローファーに慣れている私にとって、ヒールの高い靴は歩き難くて仕方がありません。
バランスを取りながら慎重に歩きますが、ふらふらとおぼつかない歩き方なってしまいます。
気付かれないよう小さな歩幅で、静かにオルトくんの前へと。

ミリエッタ「わ、ととっ…ど、どうかなっ…」

すぐ近くで見つめ合う、その目線の高さに違いは感じられません。

ティルト「ほぅ…どちらも良い勝負じゃな」
ロウフル「だな、なかなかいい勝負なんだぜ」
オルト「チビエッタ高くなったか…?」

やはりヒールの高さが加わったことで、ほぼ同じくらいの様子です。
それでも……

イオリ「あら、オルトくんのほうが高いかしらー?」
ミリエッタ「うっ…これでもちょっと負けてるっ…?!」

残念、ギリギリ届かなかったみたい…!
ズルまでしたのに、この結果は悔しいです。
でも、ほとんど変わらないとオルトくんに思わせる事ができたなら、少しはおとなしくなるかな?

オルト「はっ、まだまだだったな!」
ミリエッタ「わ、私だってっ!少しは成長してっ…
      わわっ、あっ…!」

勝ち誇る彼に、せめてもう一言言ってやろうとした、その時。


ミリエッタ「きゃっ!?」
オルト「うぉっと!」


慣れない靴のせいで、盛大に躓く私。
前のめりにバランスを崩し、思い切りオルトくんに寄り掛かるような形になってしまいました。

ロウフル「って、おいおい大丈夫か~?ミリィー」
オルト「ったく気をつけろよ」
ミリエッタ「…ぁ…オルトくん、ごめっ…」

オルトくんが咄嗟に抱き止めたくれたおかげで、事無きを得た……けれど……

――ふにゅん

ミリエッタ「…ぁ…ぇ、えとっ…(///」

私を支える彼の手の中には、残念ながらまだまだ小さな膨らみが、すっぽりと収まっていたのでした。

オルト「あっ、わわ悪いっ…!」

私のお胸に触れていた事に気付いたオルトくんが、謝りながら慌てて離れます。

オルト「………。(///」

そして、真っ赤になって顔を背けてしまいました。

残雪丸「え、えっと…お二人ともその…ど、どうしたんでしょうか?」
ロウフル「…クックック、青春だねぇ~」
アネモネ「何だか甘酸っぱい香りがしますよ」

何が起きたのか、残雪丸さんからはよく見えなかったみたいですが……
ロウフルさんやアネモネお姉さんには、気付かれてしまったかもしれません。

オルト「な、なにもないぞ!」
ミリエッタ「ぅ…じ、事故だからっ、今のは事故だから…!」

囃し立てるみんなに、しどろもどろになりながら弁明する私たち。

ロウフル「ハッハッハ、かわいいな~ふたりとも」
イオリ「ふふふ、もうー。2人ともかわいすぎますー」
ミリエッタ「わわっ、イオリさん!?」
オルト「ってやめろよ!」

そんな事をしていたら、2人まとめてイオリさんに抱き付かれてしまいました。


その後も、ティルトさんとロウフルさんも背比べしてみたり、ラッピー談義で盛り上がったり。
そんなこんなで夜は更けていきましたが、あんなハプニングの後でしたので、私は半分上の空でした。
良い時間にもなっていたので、話に区切りがついたところで、こうして自分のお部屋に戻ってきた訳ですが……。

ベッドに横になり、先程の出来事を思い出します。
1つしか違わない私が言えた事じゃないけど、歳相応に子供っぽくて、やんちゃな年下の男の子。
隊のメンバーやアークスとしては先輩だけど、私にとってオルトくんは、手の掛かる弟みたいな感覚です。
でも、抱き止めてくれた時に触れた彼の身体……意外に逞しかったな、なんて。

ああもう、何考えてるんだろう私っ。
落ち着いて、別に男の子に抱きしめられるのなんて、初めてじゃないんだし!
ジュニアスクール時代、クラスメートの男の子と付き合ってた時には、キスだって経験したじゃないっ。
そりゃお胸を触られたのは、初めてだけど……
って、そもそもアレは事故であって、そういうのじゃないんだから……!

そんな取りとめの無い思考に、急に恥ずかしさが湧き上がってきて、お布団の上でジタバタしてしまう私なのでした。






「特訓も兼ねて1人で任務に出る」と、仲間の輪から離れたオルトは、キャンプシップへの搭乗通路で先刻の事を思い出していた。
年上のクセに小さくて、からかうと愉快な反応を見せる後輩の少女。
適当に弄って遊ぶと面白い相手、くらいにしか見ていなかったが……

抱き止めた時に感じた華奢な身体つきと、サラサラの髪から香る良い匂い。
そして、掌に残る柔らかな感触。

…小さくても、女の子なんだな…

そんな事を考えると、再び顔が赤くなり、心臓の鼓動が早まるのを感じた。
彼は小さく頭を振り、早足でキャンプシップへと向かう。
自分らしくない思考を、追い払うように――



【中の人より】


  • 最終更新:2015-09-14 01:16:12