EMERGENCY CODE 【PEEP】-Change Over!!-

ここは惑星地球・東京都内にある高校、私立洸陵学園。
昼休みを迎えた教室の中で、談笑する3人の男子生徒の姿があった。

「…そうだお前ら、今日の放課後、時間空いてるか?」
「あぁ、大丈夫だ。島田、お前がそういう話を振ってくるって事は……アレだな!?」
「察しがいいな、竹本。久しぶりに、アモりに行こうじゃないか!」
「え…?えっ?何の話?」

以心伝心で話が通じている2人に対し、もう1人の生徒は状況が飲み込めていない様子。
そんな彼に、島田と竹本はニヤリと笑いながら言う。

「な~に、ちょっとした心の栄養補給をしに行こうって話さ!」
「我ら洸陵学園の男子生徒なら、みんなやってる事だ。
 留学生のお前も仲間に入れてやるから楽しみにしてな、ハミュー!」
「……???」

友人達の言葉の意味を理解できないまま……彼、ハミュー=ウェルパの頭の中では、ハテナマークが飛び交っていた。


そして迎えた放課後。
ハミューは島田達に連れられるまま、隣町の小さな商店街を訪れていた。
彼らは道の脇に置かれたベンチに腰掛け、手にした雑誌や新聞を顔の前面に広げる。
その雑誌と新聞には、小さな穴が穿たれていた。

「さーて、そろそろ女神達が通る時間だ……」
「おっ、あの制服は……来たぞっ」

覗き穴から商店街の通りを眺めながら、囁き合う島田と竹本。
老若男女様々な人が行き交う中で、彼らの視線は、特定の衣服にのみ向けられている。

「おおっ、あのお姉さん、キレーだなぁ…。
 育ちの良さが出ているというか、やっぱりウチの学校とはレベルが違う…!」
「あっちの小柄な子は1年生かな?はぁ~、かぁわいい~…」

2人が見つめているのは、純白の制服に身を包んだ女学生達。
他校の生徒のようだが、道行く姿をその目に収めては、気付かれないように小声で盛り上がっている。

「…ねぇ、2人とも…。僕らは、何をしにココへ来てるの…?」

そんな状況に1人取り残されていたハミューが、彼らに問うと。

「分からんのかハミュー!あの制服は、お嬢様学校・アモルカーナ女学院のもの…!
 この商店街は、アモルカーナの女神達の帰り道なのだっ」
「美しき彼女らを眺める事で、目の保養とし、心に潤いをもたらす!
 これぞ洸陵学園男子生徒の活力の元、通称“アモる”と呼ばれる行為…!」

2人はググッとハミューに顔を近づけ、力説する。
相変わらずの小声ではあったが。

「お前もやればその素晴らしさが分かるはずだ!」
「さぁハミュー、アモってみろ!」

そう言って、穴の空いた雑誌をハミューに差し出す。

「う、うん……」

勢いに押されて雑誌を受け取り、覗き穴から通りを眺めるハミュー。
流されるまま、同じように白い制服を探す。

(…あはは…何やってんだろ、僕…)

自らの行動に、心の中で自嘲気味に笑う彼だったが。

「はっ、また1人来たぞ……うぉっ!?可愛い!!」
「美少女揃いのアモルカーナの中でも、群を抜いている……!あの子は一体!?」
「え……!?」

今まで以上に興奮気味な友人達の声に、思わず2人の視線を追うハミュー。
その視界が、1人の少女を捉える。
ふわりとなびくレッドブラウンの髪と、華奢ながらも女性的な丸みを備えた肢体。
ぱっちりとした瞳と瑞々しい唇が目を惹く、見覚えのある顔立ち。

「……シャロンさん!?」

そこに居たのは、ハミューと同じく地球の学生に紛れ込み、現地調査を行っているシャロンだった。

「なっ、ハミュー!?」
「お前、あの子を知ってるのか!?」

ハミューの反応に、島田と竹本が驚きを示す。
アモルカーナ女学院の生徒は文字通り高嶺の花であり、こうして遠くから見つめるのが精一杯の存在だ。
留学生のハミューに交友関係があるなど、予想だにしない事だった。

「なんでアモルカーナに知り合いがいるんだよ!」
「一体、どういう関係だっ!?」
「いやその、なんていうか……」

2人はハミューに詰め寄り、事の次第を問い質す。

「あら、ハミューさん?」

その騒ぎに気付いたシャロンが、ハミューの姿を見つけて歩み寄ってきた。

「わっ、シャロンさん…!」
「そちらは、お友達の方々でしょうか?
 初めまして、塚原 紗音と申します」

塚原 紗音――地球で活動する際の名前を名乗りながら、島田と竹本に向かって優雅に一礼するシャロン。
たおやかな笑みを浮かべる彼女に、2人の顔がみるみる赤くなっていく。
その笑顔には、見慣れたはずのハミューさえ、鼓動の高鳴りを感じるのだった。
同時に、シャロンとその級友達に対してこのような行為に及んでいた自分に、強烈な羞恥と後ろめたさがこみ上げてくる。

「は、はいっ!初めまして…!」
「そーです!俺ら、ハミューのダチの…!」

シャロンに声を掛けられ、すっかり舞い上がっている島田達だったが。

「ほ、ほら、今日はこの後、予定があるでしょ!
 行くよっ!島田くん、竹本くん…!」

間に割って入ったハミューに、がっしりと腕を組まれる2人。

「うおっ、ハミュー!?」
「な、なにをするきさまー!」
「ごめんなさいシャロンさん!僕ら急いでるんで、これで失礼しますっ。
 また今度……!!」

両脇に友人達を抱えたまま、ハミューは商店街の外へと向かって急ぎ足で歩き出す。

「ああぁぁ~!アモルカーナの女神が遠ざかって行くぅ~!!」
「塚原 紗音ちゃん…!俺、覚えたッ…!」

それぞれに魂の叫びを上げながら、ハミューに引き摺られていく島田と竹本。

「あぁ、行ってしまいました……。
 一体どうしたんでしょう?変なハミューさん……」

その場に残されたシャロンは首を傾げながら、遠ざかっていくハミューの背中を見つめるのだった。


後日。

「ハミュー!紗音ちゃんにセレンフィールド先輩に…なんでお前ばっかり可愛い女の子とお近づきになれるんだよ!」
「紹介しろっ!俺らにも2人を紹介しろー!独り占めするんじゃなーいっ!」

やけに美少女との関わりが多いという理由で、悪友達に詰め寄られるハミューの姿があったとかなかったとか……。

(おしまい)

  • 最終更新:2016-03-31 00:48:32

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