「レポート……ですか」
そう、多少困惑したように声を漏らしたのは、長く伸ばした赤毛が特徴的なデューマンの少女、ルリであった。
アークスロビー、ショップエリア中央部。
多くのアークスが行き交うそこで、彼女の前に手のひらを合わせ腰を折っているのは、シーという女性だ。
顔をあげるようにと促せば、ぱっとその真剣な表情をルリの眼前に突きつけ、まくしたてる。
「お願いっ、本当に面倒なことばっかり押し付けちゃってすっごく申し訳ないんだけど!
でもやっぱり、皆が皆で盛り上がるためには共有しなきゃいけないこと、あると思うの!
ナウラ三姉妹のケーキ屋さんって、なかなか見つからないし?
期間限定ホワイトデーショコラとか味わえない人も出てくるかもしれないじゃない?
そ、こ、で。
お願いっ、食べられてない人にもホワイトデーショコラの魅力が伝わるよーに、取材してレポート集めてきてっ!
皆がホワイトデー気分に浸るためにもっ、食べたいーって人がもっと頑張って探すきっかけを作るためにもっ!
特殊C支援小隊広報班くらいしか頼む人思い浮かばなかったけど、きっと何とか出来るんじゃないかなって!
ねっ、ねっ?」
「……うーん……」
ルリは眉尻を下げ、捨てられた子犬のように縋る目をしたシーを見つめる。
確かにルリは広報班であるが、班員であるというだけで、小隊全体に影響する力は持っていない、と自負していた。
だが、しかし。
こんなふうに頼まれてしまっては、無下に断ることは出来ない。
もしかしたらシーも、こう言ってしまえばルリが断りきれないのを、無意識のうちに察していたのかもしれない。
無言が幾つかの間を過ぎたあと。
「…………お話だけ、通しておきますね……」
「やったー! ありがとうルリさーん!!」
通るかどうかはまだわからないのに、この喜びよう。
せめてしっかり協力要請をしておこうと、飛びついてきたシーを宥めすかしながら、ルリは小さく息を吐いた。