道標

『・・・ふぅ』
最後の来客の帰りを見届けると一つ息を吐き、部屋のソファーに座り込む。

『まさかあんな大勢で来るとはのぅ』

ここ最近自分に元気が無かったのは認めるが隊の者が6人も様子を見に押しかけてくるとは思わなかった。
先日のアプダクションの件から自分でも調子が悪い事はわかっていたし・・・原因もハッキリしていた。

自分を受け入れる事ができない、信じれない。
自分ではない自分が目を覚ましそうな不安・・・


『過去を受け入れたら、か・・・』

隊員ロウフルから聞かされた自分の知らなかった事実。

『もう一人の妾、それに・・・』

恐る恐るイヤリングに触れる。

『この黒く染まりつつあるイヤリング、か・・・』

話を聞く限りこの2件は繋がっている・・・イヤリングの中に違う人格が住み着いてるとでもいうのか・・・
自分が惑星リリーパで目を覚ました時から着けていたイヤリング。
イヤリングを外そうとすると自分の中に警笛が鳴る。
外してはいけない、そんな気持ちになる。

『このイヤリングが元凶なのか・・・それとも・・・』

仲間を襲ってしまった、この聞かされた事実。
元凶がイヤリングだとしても事態を収めたのもイヤリング・・・ともう一つの人格。

一体自分の身に何が起きているのか・・・ますますわからなくなってくる。

それでも今の自分の中にある記憶を全て吐き出し、仲間に聞いてもらった事で少し気持ちが楽になったのか、頭の中はずいぶんスッキリしていた。


<目が覚めた時に周囲に何か変わったものは無かったか?>

ふと隊員ルークに言われた事を思い出す。
何がどうなっているのかも判らなかったあの目覚め。
どれくらい眠っていたのか・・・暗い殻からようやく出たような目覚め。

今現在分かる<終わり>と<始まり>へもう一度足を運んでみれば何か分かるかもしれない・・・
惑星ラグオルに行く手段が分からない以上、今ある一番の手がかりは目覚めの地・惑星リリーパ。


<他人の記憶がティルさんの中にあるんじゃないか、ということかしら?>
<何らかのイレギュラーが発生して、実際に侵食されたのは他人だった、とかな>

自身が侵食によって命を落としたという記憶に対して隊員イオリ、ルークの言葉を思い出す。

先程隊員ロウフルから聞いたもう一つの人格。
侵食での死がこの人格の記憶だとしたら・・・今の自分が<生きている>という説明に繋がる。
一つの体に2つの人格が住み着いてる事やその記憶にある未知の惑星の話もあるが自分が生きた人間である、と思えるだけでどれだけ精神的に楽になるか。

しかし記憶がもう一つの人格のだとすると自身が敬愛していた母親、想いを寄せていたヒースクリフの事も結局他人事となってしまう。

『それはちと・・・さびしいのぅ』

そして・・・結局自分の記憶はゼロのままという現実も返ってくる。

<聞いたことの無い以上、相当な距離があるんだろうが>
<本当はすっごく昔のお話の記憶だったり?>

ラグオルという惑星の事を考えると隊員ゼルダ、ルークの言う事ももっともだ。
そして自身かもうひとつの人格の記憶か以前になぜ関わりえない惑星での出来事の記憶を持っているのか。
そして・・・やはり誰も知らなかった<D型寄生細胞>

スッキリしていたはずの頭がまたぐるぐる回り出す。


<ティルトさんはここに居て、我輩たちの仲間であるってことさ>

<今思い出してないことを、思い出すことがあるかもしれません・・・そのときに、
あなたが一人っきりでいるのと、誰か一人でもそばにいるのでは、まったく違ってきますから
手がかりを探すにしてもなんにしても、必ず誰かを頼ってくださいね>

『・・・有難い言葉じゃな』

隊員アドニス、イオリの言葉を思い出しソファーから立ち上がる。

『もう悩んでいても答えは出ない、なら動くしかあるまい』
『これだけ皆に元気をもらい、イオリ殿には釘までさされたしのぅ』
隊員チアキにも釘を刺されたことを思い出し、苦笑いを浮かべつつ寝室に向かう。

<・・・なにがあっても、ティルはティルだからな>
『あぁ・・・妾は妾、C隊で歩んできたこの軌跡は紛れも無く妾自身がここで生きてきた証』
最後に隊員ロウフルの去り際のセリフを噛み締める。


初めて自分でイヤリングを外し机に置く。
『妾が見つけるまで・・・大人しくしとれよ?』

イヤリングに語りかけベッドに横たわりその日は意識を閉じた。


【中の人より】


  • 最終更新:2015-09-15 01:47:26