自分探し

人にはそれぞれ、ルーツがある。
遺伝情報がなければ、生物は生物たりえない。
たどれば、ソコには必ず「元」となるものがある。

キャストも、人から被造物として生まれた存在。
それにももちろんルーツがある。
生産ラインから生まれた安定した量産機、個人製作のワンオフ。
身体を機械に置き換えたサイボーグ。表沙汰にはできない機種まで。
民間、軍用。職種も様々。
だがやはり、そこにはルーツが存在するはずなのだ。

―――では、私のルーツは?

ふとしたことから沸いた疑問。それは私の頭をあっという間に支配した。
私は、自分のルーツを知らない。自らの生れ落ちた場所も、生み出したものの顔も声も知らない。
バグで記憶が失われたのか、意図的に削られているのか、そもそも、そんなものは私の記憶に存在しないのか。
私は、何も知らない。
だから、探してみることにした。




アークスシップの街は、人工太陽と、ドームの向こうの星空が見える、それはキレイなものだ。
私が今立つここは、そんなキレイな場所とは無縁、薄暗い照明と、妖しく輝くネオンがストリートを照らす。
瓦礫と建物が秩序なく乱立し、人の流れが生み出す風には、甘い血と薬のにおいが仄かに混じる。
スラムもスラム、空の船の地の底。ココはアークスシップのアンダーグラウンド。

死んだ魚の目と、ギラついた目の流れに混ざりながら、私はヒードを被ってストリートを渡る。
探し物、いや、探し人は、私がいた店「人形の館」の元オーナー。名前は知らないし、余り意味はない。ここでは、偽名源氏名なんでもござれ。
店のみんなは、彼のことをマスターだの、お父様だの呼ばせていた。
元の職業が職業なだけに、彼は「上」には行かなかったようだ。
そして、ネットワーク上で拾った情報と、かつての同僚からの情報を繋ぎ合わせ、このあたりにいると、私はアタリをつけている。
流れからはずれ、地の底の更に暗い路地に入る。
廃墟のようなビルに、光る立て看板。時々明滅して、妖しい雰囲気を高める。
私は、そのビルのドアをくぐった。

「おう、誰に聞いてココに来たかしらねェが、ここはお前がきていいってところじゃねーぞ?」

開口一番、ひび割れたような皮膚の男が、外のボロさと似合わず、上等な燕尾服を着て、私に脅しをかける。
「ここは人形(キャスト)専門の店だ。女相手の商売もやってるが、一見はいれるわけにゃいかねーんだな」
そういって、男は、カウンターの奥へ視線を移す。
先には、漆黒の髪と赤目の少女が私を見ている。その外見は、昔の私そっくりな作り。手には、ギラリと光るナイフが一つ。
「……変わってないねぇ。マスター。その子を見るに、事故とはいえ私を手放したのは惜しかった?仕事抜きで、私を抱いたりしたもんねぇ」
フードを取る。真白の髪と、シアンの瞳。色こそ違えど、顔の形は変えてない。そんな私を見て、彼は顔色を真逆に変えた。
「…おう、おう、まさかお前アーデルハイドか。マジか。マジでマジか」
「マジだよ、大マジ。久しぶりだね。元気…してそうだねぇ」
マスターは、入店してきたときとは打って変わって。
「まぁ、立ち話もナンだし、ちょっと部屋いこうよ。聞きたいことがあってねぇ。ああ、金は払うし、別のものがいいならそっちでも」
対して彼は、ケラケラ笑いながら、あっけらかんと私に言う。
「お前の身体は恋しいが、ヤっちまったら欲しくなるからな。やめとくよ。まぁ奥いこうや」
マスターは、奥の一室へ、私を通した。





―――久々の知人、話は弾む。
お互い特に、悪い関係でなかっただけに、気がつけば結構な時間も経っていた。
頃合を見計らった私は、ついに本題を口にする。

「…ねぇ。マスターや。聞きたいことの本題なんだけどさぁ」
「なんだ、言ってみぃな。お前とオレの仲だぜ、知ってることなら答えてやる」
私のそっくりさんを愛でながら、マスターは私をみやる。そっくりさんは、微妙に不機嫌そうな顔だ。

「……私の製作者(マイスター)を知りたい。知ってるんでしょう?その子を見るに」
黒髪の子に視線を一瞬移し、再びマスターを真っ直ぐ見据える。
「……妙なことを聞くようになったもんだ。アークスになって、すっかり『人』になっちまってな」
意思の知れない嘆息を鼻から吐き出しながら、彼は語りだす。
「お前の製作者か。アイツはな、偏屈な男で、しかも名が通ってるかと思えばそうでもない。無名の職人さ。キャスト専門のな」
おもむろにタバコを咥える。マスターの膝に座っていた黒髪の子が、火を差し出す。
「カネを積めば仕事はする、そんなヤツだ。ついでにいえば、『お前』の政策は、別にオレが頼んだわけじゃねぇ」
紫煙を吐く、懐かしい香が、私の鼻にまとわり付く。上では決して出回らない、強烈な薬効成分を含む。

―――頼んだわけじゃない?

「オレは譲ってもらっただけよ。条件付きだが、破格もいいところでな。その条件がまた面白くてよぉ」
「…面白いの?条件が」
「そうよ、面白い。なんでも、『別の人格が、この子に表れたときは好きにさせろ』って。面白いだろ?なんだよ別人格って」
 
―――別人格。

ぞわり、ぞわり。 鳥肌が立つわけでもないのに、気味の悪い寒気が、私を通り過ぎる。
私の内には、別人格と呼ばれるようなものがあるというのか。
「おう、怖い顔だ。面白くなかったかな?面白くねぇか。まぁそういうことだ。お前の中には別の人格があるらしいぜ?」
表情が固まり、悪寒に震える私を余所に。笑いを崩さず、彼は続けた。
「バグとかでないのか大丈夫か、とかちゃんと聞いたらな、『この人格こそがこの子本来の人格』なんだとよ。『着床に時間がかかる』とかもいってたなぁ」
吐き出される、衝撃の事実。過去、まだ彼の下にいた私なら冗談としか受け取らなかったであろうか。
だが今は、その言葉に、ひどく真実味を感じる。

―――最近経験する、時間の記憶の欠落。部隊メンバーの言葉。

私のようであって、私ではないと。
であれば、であれば。 マスターの言葉は、きっと、きっと。
「まぁその人格とやらによっちゃぁ、客に乱暴しちまうという懸念もあったが、ま、アルコールによるリミッターもあったしな。抑止力はきちんと」
大きく煙草を吸い込む。ヂリヂリと、焦がし、燃えていく。
「こんな偏屈な仕様で作ったヤツの情報は、コイツにある。ほれ、くれてやるぜ」
放り投げられる小型のタブレット。無言でそれを拾い上げる。
「クレーム垂れにいくなり、半殺しにいくなり好きにしなぁ。ああでも、殺すなよ。あとなるだけ五体満足でな。コイツのメンテもいるからな」
黒髪の子をなぜる。擽ったそうに目を細めて。
「……ありがとうね。じゃあ、また、そのうち」
障りのない言葉でなんとか自分を取り繕って、私は店を後にした。





―――別人格。
退廃を煮詰めたストリートへ合流しながら、ずっとずっと考え込んでいる。
私の中にいるモノ。それこそが、本来の人格、つまり、本来の私。
今までの私は、仮初めのものでしかなかったというのか。
今まで生きてきた道標も、出会ってきた人々も、今の、私の心でさえも。
私は、『私』ですらなかったのか。
自分をひっくり返された衝撃で、私の身体が言うことを聞かず、ふらふらと、人の流れに任せてさまよっていた。
ふと、力なくタブレットをみやる。そこには確かに、求めていた情報があった。
私が探していた人物の名前も、所在も。

―――せめて、本人の口、直接。

そう思うと、身体に少し力が戻る。
が、そのとき、鳴り響く警報。種別は防衛。
タブレットとは別、アークス支給の端末を取る。リリーパ採掘基地の防衛命令。
エネミーは主にダーカー、尋常じゃない数が降り注ぐ砂の戦場、確実に激戦となるミッション。
「……何も考えなくてよくなるから、ちょうど、いい、かなぁ」
戦っている間は、余計なことは考えなくて済む。戦う愉悦に浸れるから。
製作者のコイツを尋ねるのは、次の機会だ。念のため、このタブレットのウラもとりたい。
そう、考えた私は、上への出入り口を目指した。


―――自分の奥底から、何かが嗤うのを、感じながら。


  • 最終更新:2015-09-13 20:45:50