私と僕 ~一つの答え~

調べる
調べる。
調べ続ける。
ひたすら端末を叩き続ける。

外でスズメが鳴いている。どうやら朝みたいだ。
私と僕は延々と、大きな端末の前に座り込んでいた。
もう2日、外にも出ないし、ここから動く事もしていない。
寝るのもココ、食べるのもココ。
あの子とあの人を助けたいから。
人を助けるなんて、正直自分らしくないと思った。
でもそんな事は、もうどうでも良かった。

親とか、家族とか、そういう関係に縛られて生きている、僕と私は
本当はもうウンザリだ、でも、それで喜ぶ人が、笑ってくれる人がいるのなら。
私は喜んで身を捧げよう。
安い命でこそあるが、それを失う事によって、その人達を裏切る事になるのなら。
僕は守ろう、僕自身を。
しかしそれは戦わない口実にはならない。
放棄する理由にはならない。
私は戦おう、私として。
僕は生きよう、僕として。
認めてくれた人達の為に。

ここの人達は・・・正直甘い。
甘すぎるくらいには、甘い。
だけどその甘さが、僕と私は、私と僕は、好きなのかもしれない。
こんな僕だけれど、こんな私だけれど。こんな私だけど、こんな僕だけれど
認めて欲しかっただけだったんだ、僕も、私も。
皆それぞれ、何かしら辛い経験をして、今ここにいるんだろう。
今、まさに辛い人だって、いるんだろう。
それでも僕と私を、受け入れてくれた人達だ。私と僕を、受け入れてくれる人達だ。

いつかは明かさなければならない事もある。
本当の私を、本当の僕を。
もしくは、いずれ分かられてしまうのかも知れない。
どちらにしても、僕と私は、私と僕は
前に進まなければならない。
止まっている暇はないし、考えている暇もない。

でも、正直行き詰まっている。
大方整理はついたが、最後のひと押しが足りないのだ。
・・・先ほど、ひと押しをしてくれそうな人物を呼んだ。
そろそろ来る頃だろう。
・・・食べ物と一緒に。

「リティー、来たよー」
黒い大柄なキャストがノックもせず、扉を開ける。
古い古いマンションなので、ドアは手動。入居者は私と僕。放棄されかけた建物なので、人が住んでいるようには見えない。
そんな状態なので、彼が開ける度にドアが歪んでいくような気がする。
いつもの事なので、僕と私は無視した、が・・・。
「・・・何、その量」
「ん?」
彼に食べ物を買って来てもらった訳だが、大きな誤算が一つ。
量だ。
目立つ赤と青で、上面に大きく白の星が描かれた、平たい箱。星の中心に大きく描かれた「hUnGaR dEsTrOyEr」という文字。
彼が気に入っているピザ屋だ、謳い文句は「ダークファルスでも満腹!」。
「飢餓の破壊者」の名前に恥じないサイズと、カロリーを誇るそれを、彼は持ってきた訳だ。
それも、5枚。
「何って、一杯買ってきてくれって言ったのはリティでしょ?」
「・・・確かに言ったけど、限度があるでしょ」

溜息をつきながらも、別に嫌いな訳でもないのでいただく事にする。
ひとまず重ねられた箱の、最上段のものから食べていく事にする。
「あ、それ一番良い奴だよ」
彼の言う"一番良い奴"とは、"オレが一番好きな奴"という意味だ。
蓋を開けると、凄まじいまでのチーズの匂い。
馬鹿デカいベーコンとたっぷりのトマト、これでもかと乗せられたチーズ。
一応ピーマンも大量に乗せられているが、他の物が生地の上を占領しているので、本当に地味に乗っている、程度に感じる。
プレジデントチーズ、という名前だ。店の看板であり、人気商品にして、最高額の品。
食べ物一つに1万メセタ近い値段がついている、というのに。
彼は毎週のように食べているのだ。
ちなみに僕と私は、一切れ食べたらお腹が一杯になるレベルのサイズだ。

・・・やっとの思いで一切れを食べ切り、一息つく。
何もかもどうでもよくなるような満腹感、正直に言って辛い。
そんな僕と私の横で、彼は3つ目の箱を開けていた。
「君には限界がないのか・・・」
「多分ない!」
ピザを貪る彼は、いつもの調子で答える。
・・・突っ込む気も失せたので、横になる。
ずっと椅子に座っていたので、横になるのも、足を伸ばすのも久しぶりだ。
人と話すのも、久々だ。誰も来ないこの場所だからこその悩みだ。

横になりながら、少し考える。
戦力的には負けている、ただし、誰かに協力してもらうのは、癪に障る。
抱えたいわけではない、死にたいわけでも、勿論ない。
ただ何がそうさせるのか、不可能を可能にしてみたいと、強く思っている。
大事な人だからこそ、なのかも知れない。
起き上がり、彼の止まらない食事を見ながら考えていた。

彼が食べ終わる頃には、私と僕の決心も出来ていた。
積み重なった箱を潰して、適当な場所に置いておく。
「行くの?」
彼はこちらを、真剣に見つめながら言う。
「行くしかないでしょ」
僕と私の心は決まっている。
止めてやる。
助けてやる。
自分のせいで人が消えるのは、もう終わりだ。
・・・だが、正直に言えば、あまり自信はない。
だからこそ、彼を、グリムを呼んだのだ。
「グリム、もし僕と私が」
「聞かないよ、やるって言ったのはリティだ。もしもダメだったら、じゃなくて、やるんだよ」
・・・言おうとした僕と私が馬鹿だった。
彼はそういう人だ、言った事はやる。
「・・・ありがとう、グリム」
彼は黙って頷く。

整備しておいた銃、研いでおいたナイフ。
いつも以上に高額な弾。
全てを持って、僕と私は部屋を出る。
・・・夕焼けが綺麗だ
戦いには丁度良いかも知れない。
戦わないのが、勿論理想だけど。
「・・・今行くよ、ママ」

僕と私は歩き出す。
たとえ本当の母親でないとしても。
それは私と僕、僕と私には、とても、とても大事な人だから。

  • 最終更新:2015-09-24 11:48:56