白銀纏いし赤き破滅

造龍クロームドラゴン、今は無き虚空機関の生み出した負の産物でありアークスにとっての脅威のひとつである。
彼らはダーカーを喰らい、その身の糧とし、更なる力へと昇華する。龍族とダーカーの混じりあった不気味な風貌
は向かい立つ者を竦ませ、不気味な遠吠えは彼らの餌であるダーカーを呼び寄せる。
だが彼らは知る由もなかった、その遠吠えが自らの餌とともに、自らの天敵も呼び寄せているということを。
彼の者の名はシルヴ・ゾーク、ダーカーと、ダーカーを食ったクロームドラゴンを捕食しその糧とする。異質を極
めた性質を持つ赤き龍。
彼は、コハクは、強烈な飢餓感を抑え付けることができずにただ化物としての本能のままにクロームドラゴンを喰
らい意識を取り戻してはまた失い、そしてまた喰らうという行為を繰り返していた。


「これで……何匹目だ……」


足元に転がる残骸を見て眼を細める、返り血に濡れた純白の体毛と口元から立ちのぼる赤い煙が今自分がしていた
事を教えてくれる。
一度この姿になればもう、意識などないものだと思っていた、ある意味苦しみから解放されるのだと、期待してい
た自分も居た。
だが現実など所詮こんなものなのだろう、己の欲求を満たすためだけに破壊と殺戮を繰り返し、その残骸を喰らっ
て生きる、今までと大して変わりはしない、化物になってもこの衝動だけは抑えることなど出来はしないのだ。
そしてまたすぐに飢えがやってくる、飢えは瞬く間に意識を刈り取り貪欲に次の獲物を探す。


「そこカ、白トカゲ……!」


獣龍と化したコハクの体はダーカーの気配のほかに、次元の歪みを素早く感知することが出来るようになっていた、
そしてその歪みに直接“穴”を繋ぎ、あまつさえそこから攻撃する能力さえ、コハクは身につけていた。
いくらしなやかで強靭な肉体を持つクロームドラゴンでも、自らが攻撃のために空けたはずの穴から突然襲いかか
られてはひとたまりもない。
羽をもぎ取られ、背中側から圧迫されて肥大化した胸が潰れ、体液が飛び散る、一瞬で肉塊と化したそれが霧散し
て消える前に、コハクは素早く食事を済ませた。


「ひ、あ……」


黄金に輝く瞳がせわしなく動く多数の中に何かを捉える。コハクはそれの形に見覚えがあった、いや、形という
よりもその容姿を知っていた、というべきか。


「ミリ……エッタ……」


ノイズがかったような声が響き、尻餅をついていたミリエッタはその声に意識を呼び戻された。
クロームドラゴンに似た、しかしそれよりももっと強く、どす黒いフォトンの波の中に触れたことのある何かが
混じる。


「コハク、さん……?」


その場にいた多くのアークスが臨戦態勢を取る中、ミリエッタはふらふらと立ち上がり赤き龍に向かってゆっくり
と歩き始めた。
目の前の衝撃的な光景と、目の前のそれがコハクではないかという可能性、そして押し寄せる異質なフォトンの波
に思考がうまく働かない。それでもミリエッタはこの場でコハクを見失ってはいけないと強く思ってしまった。
ミリエッタの目の前が真っ白に染まる、その場に、高い危機察知能力を持つかすみが居なければ今頃どうなってい
ただろうか。


「しっかりしてミリィちゃん!とりあえずこの場から逃げるわよ!」


攻撃までに十分な猶予があったにも関わらず、一瞬のうちに大多数の戦力を失ったアークス達は一気にパニック状
態に陥り、各々が全く違う行動を初めてしまった。 ある者はその場から逃げ出し、ある者は地に伏した仲間を助
けようと必死にムーンアトマイザーを放り投げる、混乱に乗じて逃げ出した二人が最後に見たのは生物の領域を遥
かに超えたスピードで狩りを行う、純白の毛に包まれた赤き閃光だった。


――――――――――――――――


「本当にあれが、コハクさんなのね……?」


チームルームにて、はっきりと意識を取り戻したミリエッタがかすみの問いに応じるように頷く。
先刻遭遇した白い毛に包まれた赤い龍の発するフォトンの波に、おぼろげだがコハクのものと同じ波長を感じたこ
と、そしてミリエッタと、龍がそう呟いたこと。


「見つかったのは惑星アムドゥスキアの龍祭壇か……」


コハクの行方は既にわからなくなっているらしいが、龍祭壇のどこかにいることは確実らしい、既に一般のアーク
スがその地区に立ち入ることは禁じられているそうだ。
現在のコハクの性質上、いつまた移動するかわからない。その場にいる全員に、迷いなどなかった。


「コハクさんの負の運命、僕達で断ち切ろう」


「よし、行こうぜ。コハクを助けに」


葉月の目には強い意思の光が、ロウフルの声色からは迷いを断ち切る固い決意が感じ取れる。


「えぇ、必ず救い出しましょう、必ず」


「皆さんと一緒ならきっと大丈夫です、コハクさんは必ず、私たちで連れ戻しましょう」


サングラスの向こう側に一抹の不安を残しつつも、言葉を繰り返して決意を改めるゴトー、そしてイリアの瞳にも
コハクを必ず救い出すという確固たる意思が宿っていた。


「待っておれコハク、妾が必ず、取り戻してやる」


ティルトのソウルジェムが強い光を放つ、彼女の強い想いに応えるように。
それぞれの想いを胸に運命の歯車は廻り出す、歯車は止まっていた時計の針を動かし、物語を刻み始めた。

  • 最終更新:2015-09-14 21:13:39