白き龍と共に在れ

[すまなかったなァ] [ティルト]


ふん、どうせこうなることもわかっておったんじゃろう?


[そう責めるな] [こうするしか] [手がなかったんだよ]


よくもまぁ、そんな口が聞けたもんじゃ……


[大丈夫だ] [約束は] [守る] [そのために] [ちっとの間] [お前さんの体に] [邪魔すんぜ]


……言っている意味が理解できんのう


[まぁ] [任せときな] [お前さん達のおかげで] [あとは体を] [引っ張り出すだけだ]


――――――――――――――――。


なんとか意識を取り戻した一行が目にしたのは、先ほどとはまるで違う、異様な光景だった。
水晶のようなものに包まれた龍と、その懐で同じように水晶のなかで眠るティルトの姿。


「これは……どういうことですかね」


ゴトーが恐る恐る水晶に触れる、コハクとティルトを閉じ込めているということ以外は特に変わり映えしない水晶
体のように見えるが、それが発生した要因もその性質もわからないとなれば迂闊に手は出せない。


「コハクさんからも、ティルトさんからも生体反応がありません……どうやら、お二人は……」


イリアのバイタルチェックで二人の安否が図られ、その結果が告げられる。
イリアの言葉に、一同は何も言葉を返せなかった。


「くそっ……俺はまた守れなかったのかよ、くっそォ……!」


ロウフルはその場に伏したまま涙を流し、地面を殴りつけた。その拳から血が流れ出るのも厭わずに、何度も、何
度も。
そのうちロウフルは水晶にしがみつき、大声で叫び始めた。


「コハク!ティルト!嘘だろ、なぁ……約束したじゃねぇか、帰ってくるって、必ず連れ戻すって……! なぁお
い、返事しろよ、おい!」


泣き叫ぶロウフルの肩をイリアの手が撫でる。


「落ち着いて下さいロウフルさん、貴方まで怪我をしてしまっています」


ゴトーも葉月も、悔しさに拳を握り締め、ロウフルは体が震えるほどに強い怒りと悲しみを感じていた。


『騒がしいのう、ロウフル』『騒がしいなァ、ロウフル』


悲観と絶望が溢れかえるその場所に声が響く、一同が驚いて目を見開いたその先、コハクとティルトが封じ込めら
れていた水晶が眩い光を放っていた。


『さぁ、コハクの身体、即刻返して貰おうぞ!』


水晶が砕け、再び赤き龍が雄叫びをあげる。それと同時に飛び出したるは雪のように髪が白く染まったティルトだ
った。
いつの間にやらその尻にはコハクの持っていた6本の尾が揺れ、頭にはぴんと立った耳まである、頬に走る黒い隈取
はやはりコハクのそれを彷彿とさせた。


『ゆくぞ!』


龍と同時にティルトが駆け出す、だが今度は、先ほどまで圧倒されていたはずのティルトが明らかに優勢だった。
武器も持っていないはずのティルトが爪のようなもので龍の表皮を切り裂いてゆく、たまらずに呻き、地に落ちた
龍の胸、先刻の総攻撃で砕けた勾玉のようなものの中心にティルトが手を突っ込む。


『そぉら!』


そのままティルトが何かを引きずりだし、ロウフルの方へほおり投げる。


「な、なんだ、何が起こっ……おわぁ!」


ロウフルが受け止めきれなかったそれは、意識のないコハクの体だった。
大慌てする一同を尻目にティルトが不敵な笑みを見せ再び龍へと向き直る。


『さぁて、返すもんも返して貰ったことじゃし』


『そろそろトドメと行くかァ?』


龍が翼を広げ、宙へと舞い上がる。ティルトはそれを追うように“翼を広げて”飛び立った。


『我が翼は煉獄、我が爪は灰燼! 審判を超え、今ここに融合せし未来への胎動!』


白く染まったティルトが天に手をかざし聞いたこともないような言の葉を紡ぎ出す。


『過去を断ち切れ!明桜・狐白燐!』


かざした手に白き剣が化現する、周囲には真っ白な桜の花弁が舞い、龍の心すら溶かしつくす。
浄化の剣に飲まれた龍は天に吸い込まれるように消え、また役目を終えた剣も桜の花を散らすかのように消え失せ
た。
白い翼を羽ばたかせながらティルトが地面へと降り立つ、状況が全くつかめず困惑する一同のあいだを割り入り、
ロウフルが抱えていたコハクの頬にティルトの手が触れると、先ほどまでの変容が嘘のように消え、元に戻った
ティルトが糸の切れた人形のように脱力してその場に座り込んだ。


「お、おい大丈夫かティルト!」


ロウフルが咄嗟にティルトの名を呼ぶ、ティルトはすぐに顔を上げ、長いため息をついた。


「大丈夫じゃよ……妾も、コハクも」


納得ができない…というより以前困惑したままの一同にティルトは恨めしそうにコハクを見やるともう一度深いた
め息をつき、口を開いた。
なるべく自分が“魔法”を使ったことは口に出さないように、注意を払いながら。ティルトとコハクが一体一で対
峙し、ティルトが覚悟を決めコハクを殺す気で攻撃を放った直後コハクの声が聞こえ、気がついたら真っ白な空間
のなかでコハクと話をしていたこと。コハクの魂が一時的にティルトに憑依し、ともに戦うことで龍を圧倒したこ
と、戦いの最中でコハクの体を取り戻すために計画を練っていたこと(最も、計画を練っていたのはコハクでティ
ルトはコハクの作戦に合わせただけとも)そして、今しがたコハクの魂を元の体に戻したこと。


「そう簡単に納得はできんじゃろうが、事実じゃよ……全く、何から何まで人任せにしおって、おまけにこやつ、
妾にカマをかけわざと全力を出させおったんじゃぞ!」


最大出力の魔法を放ったにも関わらずソウルジェムに変化がないのは不可解ながらも幸いではあったが、何よりテ
ィルトは本気でコハクを殺めようと思ってしまったことに憤りを感じていた、コハクに対しての怒りもあるが、そ
れ以上に、自分に対して。


「悪かった……だけどよ、ティルトなら絶対に約束を守ってくれるって思ってたからなァ……」


薄らと目を開けたコハクが消え入りそうな声で喋りだす、仲間の呼びかけに口角を歪め手を上げるがすぐに意識を
失ってしまった。


「……全く、本当に勝手な奴じゃのう」


こうしてコハクの周囲を巻き込んだ龍化事件は幕を閉じ、絶対安静とされたコハクにはしばらくのメディカル入り
が待っていた。
手心を加えられていたセツナとカンナはコハクよりも先に退院しコハクの面倒を見ていたそうだが、マリィに関し
ては珍しく隙だらけのコハクに対し思う存分悪戯を楽しんだとのことだ…… ―――Fin―――

  • 最終更新:2015-09-14 21:14:35