死にたがりの魔獣

※後半にグロテスクな表現があります、大丈夫という方だけどうぞ!


「魔力に魔女、D因子…それにあのイヤリングの濁り具合…ちっ」
走破訓練に向かう途中のキャンプシップ内で頭を抱え、葛藤する。
ティルトの力は有限であり、そして彼女に残された時間は……おそらくそう長くない。
「もうすぐティルトが死ぬかもしれねぇ」コハクがその考えるに至ったのは至極当然のことだったのかもしれない。
大切な仲間の死、コハクにとって経験のない未特有の恐怖である、それを打ち払うようにコハクは背中から
白銀の刃を振り抜いた。
「ふー……俺らしくもねぇ、ちまちま悩んで立ち止まるなんぞ」
悩みを断ち切るように刃を構えるコハクを、キャンプシップの激しい揺れが襲う。
けたたましい警報と爆発音、どうやら何者かに襲撃を受けたらしい。
「ちっ、ダーカーか……奴らこういう時に限ってちょっかいかけて来やがって」
キャンプシップがそう長くはもたないと判断したコハクは即座に窓を蹴破り、そのまま空中へと飛び出した。
眼下に映るのは血の色に染まった赤い沼、幾度となく見た、ダーカーの巣。
「……おもしれェ」
見事に着地したコハクの後ろで、先程飛び降りたキャンプシップが墜落し、爆発を起こす。
逃げ場はない、ここに来た以上、進むしかない。
だがコハクの表情は絶望に染まるどころか、口角を釣り上げ笑みすら浮かべていた、まるでこの先起こる
狂宴を、心待ちにするかのように。
「俺は今機嫌がわりぃんだ、てめぇ等覚悟は出来てんだろうなァ!」
駆け出したコハクを阻むように大量のダーカーが押し寄せる、だがそれも、コハクからしたらただの前座
でしかない。
「てめぇらの命、一つ残らず散らせてやらァ!」
自らの体を闇に晒し、命を喰らい、向かってくる敵も、逃げ惑う弱者も、全てを裂き、潰す。
殺戮こそ彼の糧、殺戮こそ彼の生きる理由、それを体現するようにいとも簡単に命を奪ってゆく。
「てめぇも、てめぇも、てめぇもだァ!全部全部、ぶっ潰してやるよォォォォォ!」
その衝動以上の何かを見つけよ。
突然、ティルトの言葉が頭をよぎる。
隙ができたコハクの後ろから、サイクロネーダの鉄球が迫った。
「しまっ……」
「何をしておる!」
瞬間、鉄球は宙を舞いそのまま地面にめり込んだ。
「そーらとどめじゃ、ラ・グランツ!」
鉄球を引き抜こうともがくサイクロネーダを、光フォトンのレーザーが襲う。一瞬でその光の奔流に消えた
そこには、かの者の残骸すら残されてはいなかった。
「お前さん、なんでここに……」
コハクに迫った攻撃を弾き返した上、一撃でその敵を葬り去った女性、間違えるはずもない、先程まで
コハクの頭の中を支配していたティルト、その人である。
「わからぬか?コハクが妾を呼んだのじゃぞ?」
「俺が……お前さんを?」
いきなり出てきて素っ頓狂なことを言うティルトにコハクは首をかしげた。
先ほどからコハクはほぼ無心でダーカーを屠っていたはずだ、確かにティルトの言葉が脳裏をよぎったりは
したが、それをそのまま口に出す程間抜けではない。
「細かいことはいいじゃろ、ほれ、早くここから出るぞ!」
妙に機嫌の良さそうなティルトに手を引かれ、そのままどんどんダーカーの巣の奥地へと向かってゆく。
何かがおかしい、先ほどまであんなに大量に湧いて出てきていたダーカーの姿がないのだ。
コハクが悩んでいるうちに、どうやら転送できるポイントまでついたらしい……だが、雰囲気が妙だ。
「待てティルト、お前さん……どうしてグリムグリンなんて持ってやがる」
先ほどから感じていた違和感、ティルトと会ってから急に襲ってこなくなったダーカー、そしてこれまで
見たことのないティルトの武器、コハクが彼女がティルトではないと気がつくのに、そう時間はかからなかった。
「なんじゃ、もう気がついてしもうたのか」
ティルトの周りに赤黒い霧が立ち込める……やはり、彼女はティルトの模倣体だったようだ。
「あんまりにもおかしいからよォ……それにお前さん、どうせ俺をここに連れてきたかっただけなんだろ?」
ティルトの模倣体の後ろ、さらに奥から気配がもうひとつ。
「よう“死にたがり”お望み通り殺しに来てやったぜ」
コハクの模倣体、以前コハクがアブダクションされた時に徹底的に叩きのめしたはずの男がそこに立っていた。
「どっちが死にたがりだ、お前さんまた俺にやられにきたのか?」
武器をギグルジーロに持ち替え、細く、長く息を吐き出す。
一瞬で自身の模倣体との距離を詰めたコハクが、その拳を突き出した。
「ガァハッ!…てぃ、ティルトォ!」
「何、てめぇ…!?」
コハクの模倣体の合図でティルトの模倣体がラ・フォイエを放つ、完全に死角を付かれたコハクは爆風を受け
吹っ飛ばされて地面へ激突した。
「クソったれが……!」
「いいザマじゃのう、ほれ、お前さん妾に殺して欲しいんじゃろ? 望み通りにしてやるからそこを動くでないぞ!」
ティルトの模倣体が放った言葉がコハクの胸に突き刺さる。
確かにコハクはティルトに暴走した自分を殺して欲しいと言い、ティルトは一度それを受けてくれた、だが。
「おい、てめぇ」
それはてめぇが実行すべきことでもねぇし。
「そもそもてめぇは、ティルトじゃねぇだろうがァ!」
怒鳴り声をあげて突っ込んでくるコハクにティルトの模倣体が放ったフォイエが迫る、だがコハクはそれを寸前で
かわし、自身の模倣体にしたように今度はティルトの模倣体の眼前に迫った、そして先程と同じように、コハクの
模倣体がツインダガーを持って差し迫る。
「同じ手が通用すると思ったのかよ、おら死ねェ!」
「てめぇは……」
空中から襲いかかるそれに、コハクが手を伸ばす。
「黙ッテロ」
模倣体二人が寒気を感じたと同時、コハクの模倣体の体は吹き飛び、コハクの手にはそいつの核であったであろう
フォトンの塊が握られていた。
「ひっ……!」
明らかに異質なフォトンの波と、闇の中で黄金に輝く瞳に見据えられたティルトの模倣体は思わず、小さな悲鳴を上げていた。
その隙をつき、異径と化したコハクの腕がティルトの模倣体の顔を掴み、空中へ持ち上げる。
「むぐっ、もがっ……!」
もがき逃れようとするそれがただの肉塊になるのに、そう時間はかからなかった。
まるで熟したトマトを潰すように、容易く“それ”の頭は弾け飛んだ。
紛い物の臓器が入り混じった手の平を見て、確信する、今こいつらと戦い、命を奪い、勝利したのだと。
『おぬしに生きて欲しい、そういうことじゃ』
すまねぇティルト、俺はやっぱり……お前に殺されるべきなのかもしれねぇ、このままじゃ俺ァこの衝動以上のものを見つける前に……。
「グウオオォオオォォオオオオ!」
只の化物になっちまいそうなんだ。

  • 最終更新:2015-09-14 21:11:03