正規アークスになれない理由

週に一度の定例集会を終えた後。
隊員達はそれぞれの探索へと戻り、チームルームにはゼルダ、かすみ、ミリエッタが残る形となっていた。
椅子に腰掛けて寛ぐ3人は、すっかり休憩モードといった様子で、今夜はこれ以上任務に出るつもりはないようだ。

かすみ「そういえば、最近体調大丈夫?」

1つの話題が途切れた所で、かすみがミリエッタに尋ねる。
フォトンに敏感なミリエッタは、その影響から任務の最中に体調を崩す事が度々ある。
そのため周囲からすると、どうにも病弱な少女という印象があるようだ。

ミリエッタ「最近は特に問題なく、という感じですね~」

とは言え、フォトンの影響がなければ、彼女はまったくの健康体である。
ここ暫くの任務では、激しいフォトンの活動に接する事もなく、好調そのものだった。

ゼルダ「フォトンの影響とかはよくなった?」
ミリエッタ「フォトンの操作技術も、少しずつですが上達はしてきていますし…前よりはっ」

ゼルダの問いにも、ミリエッタは元気良く答える。
その言葉の通り、実地研修という形でC隊に配属されて以来、彼女はメキメキと頭角を現していた。
フォトン操作技術は確実に向上しており、周囲のフォトンから受ける影響も、以前よりずっと抑えられる様になっている。

かすみ「そっか、じゃあ正規隊員になれるのも近いかしらね?」
ゼルダ「いつかは、完全に改善されるかもね」

後輩の順調な成長に、思わず顔がほころぶ先輩2人。
だが、かすみは自分で口にした言葉に対して、ふと疑問を覚えた。

かすみ「…そういえば、まだ正規にはなれないのかしら?」

かすみが見る限り、既にミリエッタの実力は、平均的な新米アークスを遥かに凌ぐレベルに達している。
にも関わらず、彼女は未だ研修生――見習いアークスの立場にあるのだった。

ゼルダ「そうねぇ?私より全然お仕事では優秀なのに」

ゼルダの言葉に、そんな事ないです、と慌てて否定するミリエッタ。
しかし、まだ正規アークスになれないのか、というかすみの問いに対しては、困ったような表情を浮かべていた。

ミリエッタ「そう、ですね…うぅ~ん…
      今のところは…研修を継続、という感じですから…なんとも…」

現在の状況について答えるも、その視線は宙を泳いでおり、ひどく歯切れが悪い。

かすみ「アークスの隊員の基準ってどうなってるのかしらね?」
ゼルダ「何か提出物忘れてるとかなあいー?」

かすみとゼルダは、どうにも納得がいかない様子で食い下がる。
これ以上は誤魔化しきれそうにない……ミリエッタは観念し、小さくため息を吐いた。

ミリエッタ「…私はアークスとして、とっても重要な部分が欠けていますから…正規隊員になれないのは、多分そのせいだと思います」
かずみ「重要な部分?」
ゼルダ「重要な…部分?」

これまで仲間達に話していなかった事を、ゆっくりと語り始めるミリエッタ。
アークスとして重要な部分が欠けている――
その言葉に、かすみとゼルダの疑問の声が重なった。

ミリエッタ「…前にゼルダさんと一緒に凍土に任務に出た時、ヴィスボルトに遭遇して…その時、尋ねられましたよね?
      “ヴィスボルトは平気なの?”って」
ゼルダ「えぇ、アイシャさんと一緒のときね」

数日前にゼルダ、ミリエッタ、そしてアイシャの3人で凍土探索を行った時の事だ。
彼らは任務の最中に、ダーカーの天候兵器であるヴィスボルトに遭遇した。
ダーカーの干渉により落雷を発生させ、アークスを攻撃するヴィスボルト。
どちらかと言えば行動の妨害を目的としており、威力自体はアークスに致命傷を与えるには程遠いものなのだが……
ヴィスボルトの狙いがミリエッタに向いた際、彼女はその回避を何よりも優先しており、極端に恐れているように見えた。

ミリエッタ「あの時も、苦手だって事はお話ししましたけど…これもフォトンに敏感な体質のせいなんでしょうか。
      …私、ダメなんです…ダーカーの気配というか…彼らの纏う空気が…」
ゼルダ「すなわち…怖いのね?」

ゼルダの言葉に、こくりと頷くミリエッタ。
ダーカーへの強い恐怖心。
それが、彼女の言う正規アークスになれない理由、アークスとしての重要な要素の欠如だった。

ミリエッタ「力の弱いダーカーなら、どうという事はないのですが…
      強力なのが相手になると、すっかり気圧されてしまって…」

ダーカーがその身に纏う、赤黒いオーラのようなもの。
それに触れるだけで、ミリエッタは全身が凍るような感覚に萎縮してしまうのだった。
意思の力によってコントロールされるフォトンは、感情を伝播する性質も持つ。
フォトンに対して極めて強い感受性を持つ彼女は、ダーカーがアークスに向ける憎悪や殺意までも、フォトンを介して感じ取ってしまうのだろう。
これまでの大型ダーカーとの交戦も、隊の仲間達が傍に居たから踏み止まれていただけで、彼女は常にその恐怖と戦い続けていた。

ミリエッタ「…ダークファルスの迎撃任務に出られないのも、本当はそれが理由です…。
      もちろん、研修生なんかが出られる任務じゃないんですけど…」
かすみ「そっか、そういうことだったのね」

伏目がちに言葉を続けるミリエッタ。
ダークファルスによるアークスシップ襲撃の際には、彼女は“研修生に出撃許可が下りる任務ではないから”と待機する事になる。
その言葉自体に嘘はないのだが…例え出撃が許可されたとしても、ダークファルスと対峙しただけでその空気に飲み込まれてしまうであろう事は、彼女自身が一番よく分かっていた。

ゼルダ「うーん…こんな仕事をやっている以上恐怖を感じるのは重要な事とは思うんだけど…」
かすみ「うん…そうね。怖いことを知らない人の方がよっぽど怖い行動してくれるしね…」

話しながらすっかり落ち込んでしまったミリエッタに、ゼルダとかすみがフォローを入れる。

ゼルダ「まぁでも教官がそういうのなら…話で聞くよりもっと危険と判断される部分があるのかしらね」
かすみ「そうね、それじゃもうちょっと先か…」

しかし、ダーカーに対する恐れを抱えたままでは、アークスとして適正とは言えないのは確かである。
ミリエッタがなかなか正規アークスに認定されない理由については、ゼルダもかすみもひとまず納得したようだ。

ゼルダ「でも研修生なんだし。
    きっと教官も、完全に不向きと判断してないから先延ばしなんだろうし?」
ミリエッタ「ええ…乗り越えられるように、頑張らないとですね」

一方で、ゼルダのその見解もまた、事実だった。
フォトンの影響を受けやすい事と、ダーカーに対する心理面での弱さが目立つ点を除けば、ミリエッタは非常に優秀な研修生である。
ミリエッタの通うアークス養成学校の教官達も、適正無しとして彼女を切り捨てる事はできずにいた。
幾度かに渡る協議の末、教官達が出した結論――それは、正規アークスのサポートの元、現場での経験を通して弱点を克服させる事。
そして彼女には長期実地研修が課せられ、この特殊C支援小隊へと配属されたのだった。

ゼルダ「フフ…まぁ、あれよ?焦ることはないわ」
かすみ「ふふ、そうね。焦ってなることもないわね」
ミリエッタ「はいっ、ゆっくり頑張ります…!」

ゼルダとかすみの励ましに、ミリエッタも気持ちを持ち直す。
そればかりか、ずっと抱えていた秘密を2人に打ち明けられた事で、少しだけ気が楽になったようにさえ感じられて。
先程まで沈んでいたその表情にも、静かな笑みが戻っていた。


ダーカーに対する恐怖心。
ミリエッタが乗り越えるべき障害の中でも、一際大きな壁となるだろう。
それでも、彼女の周りには支えてくれる仲間達がいる。
少女はその温かさを、確かに感じ取っていた。


【中の人より】


  • 最終更新:2015-09-14 01:07:35