未完成交響曲

「マスター~、具合はいかがでしょうか~?」

ある夜。
Megはあることを確認するために510の部屋を訪れていた。

「あぁ、大体良くはなってきましたねぇ」
「そうでしたか~それは何よりです~」

聞こう。「あの事」を。そうMegは決心した。

「しかし、こんな夜中にどうしました?」
「…」
「メグ?」

Megが目を伏せ、沈黙を返してきた。ゴトーは、困ってしまった、が、次の一言で全てを理解した。

「…マスター、いえ、今はゴトウ、そう呼ばせてもらおう」
「…久しく聞かなかった口調だ」
「ああ、今だけは、な」
「…」

『あの頃』の彼女だ。ゴトーは確信した。少し、身構える。このタイミングを狙ってきたのなら、ベストタイミングだろう。そう、思っていた。しかし、彼女から出た言葉は彼の予想とは異なっていた。

「私の身体に何をした?」

はて、何故そんなことを今更?ゴトーは戸惑った。しかし今のMegは『あの頃』のままだ。冗談で言っているわけではないことはその振る舞いで分かった。

「…今になってその話ですか?もうだいぶ経っている事を…」
「黙れ、質問に答えろ」
「…本当に久しくなかった事だ」

ゴトーの顔の前、喉元にMegが持っていた銃を突きつけられた。

「何故私の身体に老いが来ていない、本来ならもう死んでいてもおかしくはない歳だ」
「わざわざ計算までしたか、これは言い逃れ出来そうにない」
「言い逃れなどさせんよ、最初からそのつもりでこの部屋に入ってきた」
「でなければ、ソレを使うこともないだろう?」

ヤスミノコフ2000。メアリーと名付けられた銃
だ。この様子だとおそらくもう片方のシェリーも用意しているのだろう。

「ああそうだ、さあ、答えろ」
「…不老の『禁呪』、これが答えだ」
「!?」

観念したように、ゴトーから言葉が放たれた。だがその答えは、Megにとって大きなものだった。

「あくまで不老だけだ、死に至る傷を負えば死ぬし、病でも死ぬ。流石に不死の分までは払えなかった」

払えなかった。禁呪に対する代償のことだろう、その一言でMegには解ってしまった。彼が、自分にかけられた禁呪の代償を負っていることを。
ゴトー自身からすれば、特に大した意味を持たせたわけではなかった。ただ、本当のことを告げただけだった。

「…いつ」
「向こうに着いて、ややしたあたりか」
「何故!どうして私を生かす!?貴様にその権利はないだろう!」
狂ったように問いただすMeg。
「…ああそうか、確かに、”俺”にはその権利はないな…」
「じゃあ何故!」

すっと、一息。ゴトーは呼吸をおき、そしてMegの目を見て、はっきりと答えた。

「でも、”僕”にはその義務がある」
「…!」
「”僕”が背負っているモノは貴女に話したはずだ、覚えているだろう?」
「…ああ、
「『”俺”が壊した分、それに等しいだけの幸福を救う』」
…だろう」
「一字一句間違ってない」

彼が、彼女に対して聞かせた言葉。そして、彼が背負っているもの。

「これを聞かせたのは貴女が最初だ。そして、これを最初に実行することにしたのも貴方が最初だ」
「…でも、それだけじゃあ理由には不十分だ…そうだろ?私の幸福は…」
「いいや?十分な理由だ」
「…え」
「僕は知ってる、貴女が”僕”に最大の好意を抱いていることも、そして”俺”に最大の憎悪を抱いていることも」
「な…」
「もう、解るだろう」

銃を突きつけられたまま、ゴトーはMegを抱きしめた。

「貴女が最後に”僕”に救われるヒトだ」
「…つまり」
「そう」
「う…あぁ…」

彼は自らの最期を、自分に委ねるつもりでいた。Megはそれに気付いてしまった。既に彼女が握っていた銃は床に落ち、頬には涙が伝っていた。

「僕はこの罪を果たすためにはいかなる代償もこの身で負える限りは負う、それを貴女は知っているはずです」
「うん…」

そっと、ゴトーはMegの背中を撫でる。彼女は震えていた。

「だから、安心してくれていい、今は貴女の思うように生きていてくれればいい。それが、今の貴女の幸福です」
「うん…っ…」

部屋には、すすり泣く声だけが響いていた。

【事の発端】


  • 最終更新:2015-09-13 20:48:56