平和で気だるい、いつもの朝

「………んあ……んん……」


布団の上でだらしなく着物をはだけたまま横向きに寝ていたコハクが薄く目を開き、気だるそうな声をあげてから再び目を閉じる。


「…んぁ……ちっ……くあぁ……」


ごろりと仰向けになり、押しつぶされた尻尾がふわりと背中を包むのを感じつつ微妙な硬さと尻尾への圧迫感を不快に感じ顔をしかめる、この尻尾、割と便利ではあるがこういう時に邪魔である。


「…………ふぁ………かったりぃなァ」


コハクが胸をぼりぼりと掻くと更に着物がはだける、それでも夏の暑さの前に少々の着衣の乱れは気にもならず、むしろ汗がついてしめった生地から開放された肌から感じる空気の冷たさが心地いい程だ。


「とりあえず……風呂……」


そう呟くと、既に半脱ぎ状態にあった着物から身体をするりと抜けさせ、半裸のままで袴の帯を外す、ついでに褌の紐も外すとまるで全ての枷が外れたかのように少しだけ体が軽くなった。


「んんー……あぁ……くそ、獣くせぇ」


コハクは龍の血と獣の毛並みが混じっているせいか普通のヒューマンと比べて幾分匂いがきつい、特に夏の朝は鼻が効く分体臭に気を使うコハクであっても防げないほどに夜に汗をかきどうしても匂いがきつくなってしまう。
この匂いをさっさと汗と一緒に流してしまいたい、コハクの意思がようやく眠気に勝り始める。


「……っと、起きる、か……」


もそもそと立ち上がり、足にひっかかった袴を振り払って全裸のままふらふらと自室の隣にある風呂場に向かう、ここで汗を流し朝一番の風呂に入るのがコハクの日課だ。
風呂場の椅子に座るといつものように熱めのお湯を出し温度を確認してから桶に溜め、まず一杯、頭から被る。


「……っはぁ!……ふー……」


ようやくすっきりしてきたところで二杯目を溜め、シャンプーを手に出して髪を丁寧に洗ってゆく、リンスやトリートメントもするのだが、それはいつも仕事が終わってから夜にやることが多い。
朝のこの時間はあくまでコハクにとっても娯楽であり起きるための運動のようなものなのだ。
二杯目のお湯を頭に被りすぐさま三杯目を溜める、間髪いれずにそれをやはり頭から、しかし今度はゆっくりと流すようにしてもう片方の手で髪の間、頭皮に至るまで丁寧に手櫛を入れつつしっかりと泡を落とす。


「だいぶすっきりしたなァ……よし」


今度は台の上に置いてある小さな箱を空け、その中に入っていた石鹸でスポンジを泡立てる、コハクの肌は特別デリケート……というわけでもないのだが何故だか彼は毎度毎度自分の肌をこれでもかという程優しく包み込むように洗うのだ。
ゆっくりと時間をかけて身体を洗い、ようやくそれが終わったと思えばまた別の容器から液体を手の上へと乗せる、香りの強いそれはコハクの尻尾を洗うためだけに購入されたものであり消臭の効果も高く毛の保湿も十分にしてくれる上仄かに優しい香りまで漂わせてくれる素晴らしいものだが……いかんせん、高い。
しかもこれが髪を洗うシャンプーよりもはるかに早い速度で減るというのだから割とコハクも苦労しているのである。


「こりゃ今日のうちに買出しにいかねぇとな……」


尻尾に付いた泡を流してようやく湯船に浸かる、風呂好きのコハクにとってはこの瞬間こそが至福の時だ。


「ふぅー……くあぁ……あ……」


たっぷりと長い時間をかけて身体を温める、熱いぐらいの温度が彼にとっては丁度いい、後天的とはいえ火属性のフォトンに高い適正を持つ彼は暑さに強く寒さに弱い、それもおそらく起因しているのだろう。
基本的に濡れてしまうのが嫌いなコハクだが風呂だけは別な様子で全身が乾くのにかなり時間がかかるのにも関わらず多いときは一日に5回以上入浴する。 一回一回の入浴の時間もかなり長い。


「さぁて……今日は任務もねぇし戦闘訓練の予定もねぇし……店も休みだな、久々にセツナとカンナ……ついでにマリィの服も見てきてやるか」


湯船に浸かりながらゆっくりと今日の予定を組み立てる、たまには市街地に降りて買い物というのもいいものだろう。さて、今日の飯はどうすっかなァ。 ――fin――

  • 最終更新:2015-09-14 21:10:31