実力の差と力

「うぅ…」
外から聞こえる騒音にシャームは目を覚ました。
閉まった窓から微かに聞こえる怒声で外で喧嘩が起きているのが分かった。
「…活気ありすぎ…静かに…しようよ…」
先日故郷であるスラムの近くに部屋を取り引っ越してきたのだが、どうも朝から活気があり過ぎるように感じていた。
それがシャームの目覚ましなのだが。
「…今日の予定は…」
端末をいじり今日の予定を確認する。
早々に任務を終わらせようと思ったが予定には何も記載されていなかった。
まるで何も無い日だった。
「…うぅ…どうしようかな…体は動かしたいし…」
腕を組みベッドの上で思案し、直ぐに答えを出した。
「そうだ…師匠に…手合わせ…願おう…」
師匠であるコハクの実力は自分よりも遥か上である事は知っている、自分の目でも見た事があったから余計に理解していた、それでも自分にどれだけの実力があり、師匠との差があるのかが知りたかった。
善は急げとシャームはクローゼットからコートを取り出し急いで羽織り荷物を持つと部屋から飛び出していった。
「…今日も元気ですね」
出ていった部屋でサポートパートナーのシェルがさみしさを滲ませながら小さく呟いていた。


ロビーでコハクに連絡を入れると直ぐに了承の返事が来て直ぐに姿を表した。
場所を話し合い地面の安定するハルコタンに決めキャンプシップに乗り込んだ。

ハルコタンの白の領域に着きシップから降りると広場に出た。
四角く区切られた空間でまるで闘技場であるようだった。
コハク「さて、ここら辺なら敵の気配もねぇか」
師匠であるコハクの声を聞きシャームが振り向くとコハクはゆったりと立っていた。
コハク「さぁて、んで、組み手・・・だったなァ」
真っ直ぐとシャームを見据えるコハクに内心怯むがそれを出さずにその視線を受け答える。
シャーム「はい…」
シャーム「僕の実力…師匠との差…色々知りたい…」
素直な気持ちを伝えるとコハクは纏う空気を変えた。
コハク「ま、いくら後輩で、弟子みてぇなもんとはいえ勝負を挑まれちゃあ黙っちゃいられねぇし」
コハク「胸を貸してやるよ、全力ですかかってきなァ!」
コハクは言い終わると同時に羽織を脱ぎ捨て身軽な格好になった、さらに同時に背中のツインダガーの刃の形状までもが変化した。
明らかに纏う空気が差を明らかにしていた。
コハクの余裕がありながらも対峙している覇気のようなものにシャームは微かに足が震えるのが分かった。
そんな中で《負けたくない》そんな気持ちがフツフツと沸き上がり足を踏み出させた。
シャーム「うん…全力で…全開」
そう言い両手をインガに掛け抜き放つ。
シャーム「命懸けで…」
両手を下げインガをゆっくり構えると
コハク「初手は譲ってやる、きな、シャーム!」
実力を見定める為かコハクが初手を譲ってきたのだ。
それに答えるべくシャームはゆっくりとインガを振りかぶった。
シャーム「…いくよ…!」
そしてコハク目掛けインガを投擲した。
真っ直ぐとコハクの右脚、左脇腹に向かい回転し放たれたインガをコハクは弾く事もせずゆっくりと横に動きかわした。
シャーム「あ、あたんない…?!」
フォトンを込めていた為インガは投げたコースをそのまま戻ってきてシャームの手元に帰ってきた。
コハク「へぇ、流石にいい太刀筋だ・・・んならこっちからも行くぜェ!」
インガが戻ったのを見計らったようにコハクが地面を蹴り猛スピードで迫ってきた。
シャーム「…!」
目にも止まらぬコハクのダガーの連撃、それを直撃しないように何とかかすりながらかわす事しか出来ずにただ後退する事しか出来なかった。
コハク「直撃は免れるか、いい速さだ」
シャーム「くっ…だったら、こっちもだ…!」
一旦距離を取りインガを投げ捨てるとシャームは赤のナックルに持ち替えた。
確実に距離を詰め一撃を撃ち込む為に。
それを見るとコハクもダガーをしまい武器を持ち替えた。
コハク「いいぜ、当ててこいよ」
コハクの拳が光を宿し、その指でシャームを挑発するように動かした。
シャーム「…ぜぇぇぁああああ!」
シャームはその挑発に乗るように思い切り地面を蹴りコハクとの距離を詰め連打を撃ち込む。
鳩尾、脇腹、顎、左胸、腹部。
当たれば動きを止める場所にシャームは本気で撃ち込んでいく、が
それもコハクは当たりもかすりもせずに全てをかわされていく。
無呼吸で撃ち続けていたシャームに限界が訪れ足が止まる。
シャーム「あ、当たらなすぎ…はぁ…はぁ…」
身体が空気を欲し呼吸が荒くなる。
それを見たコハクがゆっくりと指摘する。
コハク「なるほど…それなりにいい一撃だ…」
コハク「だがそうだな…お前さんは力に振り回されすぎてる…だからあたらねぇ」
シャーム「…振り回されてる…」
言われた事実にシャームは歯噛みする。
しかし、それを身体に教え込むかのようにコハクが声を上げた。
コハク「そろそろわからせてやるよ、おら、歯ァ食いしばれ!」
シャームには何が起きたか分からなかった。
数来る攻撃が見えそれを防ごうとナックルを上げた瞬間に自分の腹に裏拳がめり込んでいたのだ。
シャーム「がぶっ…?!」
色んな物が込み上げて来そうだったがそれよりも吹き飛ばされないように地面に踏ん張った。
それでも数mはじき飛ばされ、足から力が抜けシャームは尻餅をついた。
コハク「ふー・・・」
コハクはゆっくりと貯めていたらしい息を吐き呼吸を整えていた。
まるで終わりかのように。
それが悔しくて、悔しくてしょうがなくなりシャームはヨロヨロと立ち上がった。
シャーム「まだ…終わって…ない」
コハク「…いい根性だ」
立ち上がったシャームを褒めるコハク、それがまた無性に悔しくなってシャームはコハクの口調を真似た。
シャーム「歯ぁ…食いしばれ…師匠…」
右手を引き本気で撃ち込むモーションを取る。絶対に当てて見せる為に。
コハク「そうか…まだ、終わってねぇってか」
コハク「いいぜ…食いしばってやる、受けきってやるよ!」
コハクがその場に立つ。
フォトンが動いた気もしたがコハクの手札を知らない為にどうしようもない、そう思ったシャームは次に全力を込めた。
シャーム「全力で…全開…命懸け…!」
リミットブレイクを発動。
自分にとっての最大の力を拳に込めてコハクの腹部に撃ち込み突き刺した。
ジャストミートした感触が手には合った。
それなのにコハクは小さく舌打ちをしてふらついただけだった。
吹き飛ぶどころか倒れもせず直立不動でそこにいた。
コハク「流石に…まともに食らうといてぇな…」
シャーム「…痛いだけで…すむのかな…」
コハク「まぁ、まだ今のうちは、なァ」
悔しかった。
本気にして最大の一撃を最高の位置に当てられたのに痛いで済まされてしまった事が本当に悔しかった。
シャーム「くやしい…ここまで…なんて…」
口から漏れ出すくらいに悔しかった。
自分の力に自信があっただけにそれを根本的に破壊されたのだから相当だった。
コハク「いや、お前さんは優秀だと思うぜ?」
コハク「ここまでいい攻撃が出来るアークスはそうそういねぇよ、自信持ちな」
素直に答える気力も沸かず小さくはい、と答えるだけになったがコハクはシャームの欠点に気付いていた。
コハク「威力は申し分ねぇ、だがまぁ…そうだな、あえて言うなら力が分散しすぎだ」
コハク「集中力も戦闘での感も、申し分ねぇんだが」
コハク「ただそれだけに、なんで分散してんのかがわかんねぇ」
シャーム「分散…」
食らったからこそ分かったのだろうとは思うがそれでも分散と言い当てた事は凄かった。
シャームはコハクに話せる範囲で自分の能力を伝えた。
シャームの古代式リミットブレイクの正体。
父の遭難。
出身など。
驚いたらしいコハクも人の事を言えないと自分の正体を教えてくれた。
そしてその端々から漏れ出る仲間への信頼を。

コハク「…シャーム、お前さんがその力をどう使おうと」
コハク「その力で何をしようと勝手だが」
コハク「使いどころを間違えるな、力に呑まれるな」
コハク「支配下において、完全に自分のものにしてやれ」
コハク「あとは自然に安定する、そん時はもっと強く、もっと穏やかにその力が震えるだろうよ」
コハクの最後の言葉には強い説得力があった。
シャームはそれを心に刻み付け一礼した。

絶対に忘れない、今日の差と力の意味を。
僕は今日という日を忘れない。



余談ではあるが。
ボロボロで部屋に帰ったシャームを待っていたのは仏頂面のシェルであった。
シェル「…これまた随分と暴れたようで」
シャーム「こ、これは…修行…」
シェル「…貴方に怪我が無いのならそれで幸い。体を大事にしてください。」
シャーム「ご、ごめんなさい…シェル…」
完全に肩を落として落ち込むシャームを見てシェルは溜息をつきながらもシャームの後ろを指差した。
シェル「貴方がそうならなくて、良かった。」
シャームはシェルが指差す物を辿ると腰に付けていたナックルだった。
気になって手に取ってみると。
シャーム「うぁ…」
装甲が剥離して全体にヒビ、フォトンは当然巡らず完全に故障していた。
そんなナックルを見ながらシャームが思った事と言えば、
シャーム。0(師匠…堅…)
であった。

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中の人から
トラウムです。
書いたは良いけど物凄い駄文でした…
ちょっと恥ずかしいけどこれからうまくなるように頑張ります。

シャームとコハクさんの組手修行のお話です。
いやはや、まさか途中から過去暴露編になるとは思っては無かったのですが…楽しかったです。
実力不足のために、後半を大分切りましたが余裕があったらそこも掲載します。
どうかしばらくお付合い願います。

※8/3 修整、追加

  • 最終更新:2015-09-13 23:24:00

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