女の子って、大変です(後編)

ボクは脱衣所で一人、葛藤し続けていた。
シャワーを浴びてくるように言われはしたけれど、それはつまり、服を脱がなければならない訳で……。
考えただけでも恥ずかしくなってくる。
だけど、いつまでもこうしている訳にもいかない。
ボクは覚悟を決めると、できるだけ自分の身体を見ないようにしながら、唯一の着衣であるローブを脱ぎ捨てる。
そして、浴室へと続くドアを開いた。

「……!!」

扉を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、一糸纏わぬ姿の少女。

「わぁっ!?」

ボクが慌てふためき顔を背けると、目の前の彼女も同じ動作をする。
そこでようやく、それが浴室の鏡に映ったボク自身なのだと理解した。

「…はぁ……」

少し落ち着きを取り戻したところで、再び鏡へと視線を向けてみる。
頬を赤らめ、じっとこちらを見つめ返してくる女の子。
その身体が描く丸みを帯びた線は、男性との違いを否応なしに感じさせる。
顔は以前のボクそのままだが、元々が女顔だったせいで、今の方がしっくり来るような気さえしてしまう。

視線の位置からなんとなく感じてはいたけれど、背丈はかなり低くなっていた。
166cmあったボクの身長も、今では140cmあるかどうか、といった具合だ。
年端も行かない少女の裸体を見ているようで、とてつもない背徳感と羞恥心が湧き上がってくる。

「こ、こんな事していないで、さっさと洗ってしまおう……」

自分に言い聞かせるように呟くと、水栓を捻り、頭からシャワーを浴びる。
程よい温度のお湯が水玉となって弾け飛び、肌の上を流れていく感覚が心地よい。
腰まで届く長さの髪にも、たっぷりと水を含ませると、ボクは小さなボトルを手に取った。
浴室へと向かう前に、洗髪にはこれを使うように、とお医者さんから渡されたもの。
蓋を開けてボトルを傾け、トロリとした液体を掌に取ると、甘い匂いが鼻腔をくすぐった。

……これって、女の子用のシャンプー?
今のボクには、こっちの方が合っているとは言え……

「なんで、こんなものまで用意してあるんだろう……」

お医者さんの準備の良さ(?)に半ば呆れながら、ボクは髪を洗い始める。
髪に馴染ませ、泡立てるに連れて、フローラルな香りが浴室内に満ちていく。
女性用シャンプーを使うなんて、ちょっと気恥ずかしいけれど。

「♪~」

ボクは部屋中に広がるイイ匂いを楽しみながら、髪の間に指を滑らせるのだった。


「………」

ボディーソープのボトルを握ったまま、じっと立ち尽くすボク。
髪を洗い、洗顔まで終えてしまった今……いよいよ、この身体を洗わなければならない。
ボトルの中身を手に取り、まずは腕や足など、当たり障りの無いところから洗っていく。
それでも、ふわふわとした柔らかな手触りは、以前とはまるで違っていた。

そして、ついに。
洗うべき場所は、決定的に変わってしまった部分を残すのみ、となってしまった。
自分の身体を見下ろすと、目の前には慎ましい膨らみが2つ。
顔が赤くなるのを感じながら、そーっとそこに両手を伸ばしていく。

「べ、別に…身体を洗うだけだしっ…」

自分に言い訳をしてみたものの、なんだかとてもイケナイ事をしようとしている気分。
体温が上がり、胸がドキドキしているのが分かる。
そして、泡まみれの手がいよいよ小さな乳房に触れようとした、その時。

「シャロンくーん?着替え、ここに置いておくからね?」
「ゎひゃあっ!?!?」

突如浴室の外から響く、お医者さんの声。
驚きのあまり、素っ頓狂な反応をしてしまった。
先程とは別の理由で、心臓が早鐘を打つ。

「は、はひっ!分かりましたっ……」

ボクは動転したまま、大慌てで止まってしまった手を動かし、全身を洗う。
……うん……結局はその勢いで、隅から隅まで触ってしまったのだけど。
半ばパニックに陥っていたせいで、詳しいコトは記憶にございません……。



☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆ ~ ☆



「…こ、これは……」

やっとの事で身体を洗い終え、脱衣所に戻ったボクを待ち受けていたもの。
お医者さんが用意してくれた着替えを前にして、ボクは完全に固まっていた。
綺麗に折り畳まれて置かれた衣服を、1枚ずつ手に取りながら確認してみる。

ごく普通のTシャツ……これは良い。
だけど、こっちのインナートップスは、あまり馴染みのないものだ。
胸のあたりまでしか丈がない、タンクトップの上半分のような形。
こういうのって、ハーフトップって言うんだっけ?
Tシャツの下にはコレを着ろ、という事だよね……。

そして、問題なのは下の方だった。
幾つものひだを持つこの筒状の布は、どう見ても女性専用のスカートという衣類だ。
しかもコレ、割と短いような気がするんだけど……。

更に、最後の1枚は。
やけに薄くて伸縮性の高い、小さな三角形の布。
縁の部分にはふりふりとした飾りが付いた、可愛らしいデザインをしている。
パンティとか、ショーツとか……そういった呼称のを持つ、女性用下着だった。

これをボクに穿けっていうの……!?
幾らなんでも恥ずかし過ぎる。
だけど、シャワーを浴びる前に着ていたローブは回収されてしまっているし……

「…仕方がない、か…」

観念してため息を一つ吐くと、ボクは用意された服を着始めた。
まずは上半身のインナーから。
ハーフトップを頭から被り、腕を通して着る。

「んっ……」

きゅっと、優しく身体を締め付けられるような着心地。
胸の部分で微かに突っ張る感じがするのが、なんとも変な気分だった。

続いて、ショーツを手に取るボク。
これを身に着けるのはかなり抵抗があるものの、パンツを穿かない訳にもいかない。

「……えぇいっ…!」

両足を通すと、思い切ってショーツを引き上げた。
ぴったりと身体にフィットする下着の感覚に、強い違和感を覚える。
落ち着かないけど、我慢、我慢……!

ショーツの次は、スカートを手に取る。
よーし、この勢いで一気に行くよっ。
と、意気込んだものの……いまいち穿き方が分からず、しばらく構造を調べるハメになった。

……ぁ、こんなところにファスナーがあるんだね。
仕組みを理解したことで、ようやく穿くことができた。
腰の所まで引き上げて、ファスナーを閉める。
これでOK、のハズなのに……

「うぅ、足元がスースーする……」

膝上までしか丈がなくて、下はガラ空きの布……
それがヒラヒラと揺れるものだから、どうしようもなく心許ない。

でも、これで残りはTシャツを着るのみ。
用意された着替えの中で、唯一戸惑うことのない服を、手早く身に纏う。
ふぅ……どうにか着替えを終える事はできた。

あとは髪を乾かして、お医者さんの待つ研究室に戻らないといけない……の、だけど……


「お、お待たせしました……」

研究室へと戻ったボクは、消え入りそうな声をどうにか絞り出す。

「おぉ、なかなか似合っているね。
 可愛いじゃないか」
「………」

俯いたままの顔は、耳まで真っ赤になってるに違いない。
他に選択肢がなかったとは言え、女装姿で人前に出るのは滅茶苦茶恥ずかしい。
……今のボクは女の子な訳だから、女装とは言わないのかもしれないけど、そこは気持ちの問題で。
とにかく、穴があったら引き篭りたいくらいだった。

「よし、準備もできたようだし」

だけど、現実はどこまでも残酷です。
これからボクは、今後の住居となる部屋に案内してもらうため、市街地へと出掛けなければならない。
引き篭もるどころか、思い切り人々の目に晒される形になる。

「それじゃあ、行こうか?」
「……はい…」

恥ずかしさに押し潰されそうになりながら、お医者さんに連れられて、外の世界へと踏み出すボク。
屋外へと出た途端、露になった太腿の間を、スーッと風が通り抜ける。
その涼しさと心細さは、今までに感じた事のないものだった……。

(続く…)

  • 最終更新:2015-09-13 20:53:01