哀しき願い

背後から人の気配がした直後、マイルームの扉が開く。
先刻呼び出したロウフルが来てくれたらしい、さて…んじゃ俺も覚悟を決めねぇとな。


コハク 「よう、来たな」
ロウフル「おう、邪魔するぜ」
コハク 「まぁ、適当なとこにかけな」


一旦ソファに体を預けロウフルに悟られないよう深く息を吸った
とうのロウフルといえば…確かに適当なところにかけろとは言ったが、流石にカンナ…サポートパートナーの隣はどうなのだろうか。
                            ロウフル「ふむ、なかなかかわいらしい子達だな」 
ロウフル「オホン」


いつもの咳払いをしてごまかそうとするロウフルを見て少しだけ落ち着いた、そうだ、こいつはこういう奴だった。
場を和ませ、仲間を和ませ……それでも第一に考えるは仲間の安否、そんな奴だった。


コハク 「…言っとくがカンナに触ると、目の前のセツナからサクラエンドが飛んでくっからな?」


いつものようにロウフルに調子を合わせる。
            ロウフル 「・・・ま、まだ触ってねぇからセーフセーフ」


いつものようにロウフルが慌てて返してくる…いつも通りだ。
            コハク 「はっはっは!さぁて、んじゃいつものおふざけは置いといて本題だ」 
ロウフル「っと、おふざけはこんぐらいにすっか」


だが、今回ばかりは……いつも通りでは話せそうにねぇんだ。
先刻の防衛戦で出ちまったリミットブレイク……いや、冥桜を使った時の反動はこれ以上誤魔化せそうもない
ここから先はただありのままを……そして、俺の願いを話さなきゃならねぇ。
ダーカー因子の濃度上昇と生命の危篤状態が重なって初めて覚醒する俺の力、冥桜。
そしてそれを使うために俺がどれだけ危険なことをしているか……。
こいつに話せば俺のことを止めるってのはわかっている、それでもこいつには、ロウフルには伝えねぇとなんねぇ、だからこそ。
            コハク 「これ聞いたらお前さんはきっと止めるだろう、今すぐアークスやめろとすら言うかもしれねぇ…だが最初に言っとくぜ 
     俺はこのスタイルでずっと戦ってきたしこれからもそうするつもりだ、この戦い方も、アークスも辞めるつもりはねぇ
     わかってくれるなロウフル、うなづいてくれねぇならこれ以上は話せねぇ」
ロウフル「・・・・
     ・・・・引く気はない、よな」
コハク 「ねぇな、お前さんが今ここで頷こうと頷くまいと、俺はこの戦い方を改めるつもりはねぇよ」
ロウフル「わかったよ、俺じゃ無理に止めることなんてできねぇし
だったら約束してくれ、絶対死なないってな」


すまねぇロウフル、それは出来ねぇ……だが、お前さんはそれじゃ納得しねぇんだろう。
            コハク 「絶対死なない…か、そうだな、お前さんたちが俺を起こしてくれる限り死ねねぇよ、お前さん達が呼びかけてる間はなァ」


だから俺は嘘をつく、本当は……もう起き上がるのもこえぇんだ。
            ロウフル「そうか・・・だったら安心だな、何があっても俺はお前に呼びかけ続けるからな
「生きて帰ってこい!」てな」
コハク 「俺ァそんなんで生きるのを諦めるつもりもねぇしな、大体任務中に死んだら地獄まで追っかけてきそうな奴が居るしなァ」
コハク 「なら問題はねぇな…この先の話でその約束を覆すことも言っちまうだろうが、お前さんなら受け入れてくれると信じるぜ」


心が痛む、こんなに俺のことを、仲間のことを信じているロウフルを騙すのは、辛いことだった。
だからこそ、最後の最後でそれを繕うような真似をしちまった。


ロウフル「覆すようなことになったらさらにこっちからひっくり返してやるよ」


それでもロウフルは、ロウフルらしい。
それならばここからは、せめて嘘偽りなく、話してやんねぇとな……


コハク 「……さぁて、じゃあ話の続きだ、俺のスイッチの入れ方…それは俺自身が一時期的に半ダーカー化することだ」
ロウフル「ダーカーに、なる?」


ロウフルが目を丸くする、当然だ……ダーカーになるなんて、想像もしてなかっただろう。
            コハク 「半分な、普通のアークスが持ってるフォトンを集める能力、俺はこれを派生させたもうひとつを持ってる 
コハク お前さんたちがダーカー因子とか、巷ではダークフォトンとか言われてるダーカーを形成する黒い粒子をかき集める力だ
コハク クロームドラゴンとかにも似たようなのがあるな、ダーカーだけを引き寄せて食っちまうあれだ、あれの改良したのが俺の中にある」


そしてそのクロームドラゴンを造ったのも虚空機関……俺を生み出したルーサーの“玩具箱”
こいつのせいで、俺のような奴はきっと何人も……。
            ロウフル「アレと同じ力・・・か」


俺の力は奴の力の改良、クロームドラゴンがダーカーだけをかき集めるように、俺の身体はダーカー因子だけをかき集める
そしてそれに身体を侵食させ、ダーカー因子の濃度を上げた上で極限状態となった身体を作り出す。
公にはリミットブレイクとして使ってるが、そもそもダーカー因子を使うって時点で俺のは別物だろう、それにこれには
リミットブレイク以上のリスクが伴う。
それを軽減するためにマリア姐さんの制約を守ってきてたつもりだったが……それもそろそろ限界らしいな。
                        コハク 「変に踏ん張れたり、反動が出始めたりしたあたりからたまに…正気が保てなくなるんだよなァ」 
ロウフル「おいおいそれって暴走じゃ・・・」


そう、暴走だ。
            コハク 「…多分なァ、体内のダーカー因子が薄れるのが遅れてんのか、それとも完全にどっかが侵食されちまったのか…」


そして、この予想はおそらく後者だろう。
薄れるのが遅れてるだけなら、発作みてぇに、あんなに不定期には起こり得ねぇはずだからよ。
そして……俺が完全に侵食されたあとは……。
            コハク 「どちらにしろ、俺がこのまま正気を保てなくなったら、その時はお前さんに頼みてぇことがある」 
ロウフル「・・・
     ・・・一体なんなんだ?頼みって」
コハク 「勘のいいお前さんならもう気がついてるだろうなァ」


そう、ロウフルは気がついているのだろう、だからこそ、こんなに……空気が重いのだろう。
彼の信念を曲げるような頼み、彼を最も苦しめるであろう依頼、彼はもう、薄々それに気がついてしまっている
それでも俺は、お前さんに伝えなきゃなんねぇんだ。
            コハク 「暴走した俺を止めて欲しい、被害がすくねぇうちに 
     手段は問わねぇ、だがその時の俺はふん縛っても止まんねぇだろう
     場合によっちゃ…そのまま脳天撃ち抜いて殺しちまってくれ、それくらいの覚悟でやってくれ」


ロウフルにとって、それは最も不可能であろう頼み、叶うはずのない俺の願望。
それでもこれは真実で、それだけは伝えておかなければならなかった。
                            ロウフル「・・・仲間を殺せって、そりゃ俺には無理。
     だから、絶対止めてやる、止めて正気に戻してやる」
コハク 「そういうだろうと思ったよ…ったく、ほんとにお前は仲間思いだなァ」


返ってきた返事は半分予想通り、しかし半分は予想外だった。
仲間を傷つけられるのでさえ苦しいはずのロウフルが、止めて正気に戻してくれるというのだから彼も
成長しているのだろう、それに比べて、俺は……。
            ロウフル「当たり前だ、俺が動く理由は仲間のためだからな 
    それに辛いもんだぞ、仲間に置いていかれるのはな・・・」


そう、仲間に置いていかれるのは辛い。
            コハク「あぁ、俺も仲間を…アークスを傷つけたくはねぇ、だからその時は俺を止めてくれ 
コハク ほんとは、お前さんにもこんな危険な頼みはしたくなかった、最悪この手でお前さんを…そう考えると怖ェよ」


そして仲間を傷つけるのは、大切な仲間をこの手にかけるのは……もっと辛い。
            ロウフル「だったらそっちも、最後まで抗えよ、最後までな」


最後まで、ロウフルの言葉がやけに心に突き刺さった
最後……その最後は、いつ来るのだろう。 刃物のように心に刺さったそれは、やがて楔となって俺の全てを
粉々に砕いちまうんだろうか。
            ロウフル「俺はそう簡単にはやられねぇ 
     まぁ最悪、時間稼ぎの壁ぐらいにはなれるさ」
コハク 「おう、信じてるぜ…お前さんとティルトなら、大丈夫だ」


その時は全部忘れて逃げてくれ、言おうと思った言葉はロウフルの決意の前にかき消された
きっと、きっと大丈夫……こいつらなら、きっと俺を止めてくれる。
            ロウフル「あぁ、任せておけ」


「任せておけ」今はこの言葉に頼る他ないのだろう。
予防線は張った、ここからはどこまで俺が抗えるのかどうかだ。
そして願わくば、この呪縛から解放してくれるのが俺の信頼する大切な仲間達であって欲しいと、そう祈るばかりだ。

  • 最終更新:2015-09-14 21:11:31