優しさに抱かれて

ミリエッタ「おはようございます~…」
シャロン「あ、おはようございます、ですっ…って…やっぱり、寝られなかったんですね…」

チーム回線に、力の無い声が響く。
ハミューの内に潜むダーカーの侵食が、ダークファルス【敗者】との交戦により顕在化した日の翌朝。
寝不足のミリエッタを出迎えたのは、共にハミューの豹変を目の当たりにしたシャロンの声だった。

ミリエッタ「…はい…あんな事があったばかりですから、ぐっすりとはいきませんよ~…」

シャロンは既に任務に出ているらしく、通信越しのやり取りが続く。

シャロン「…ええっと…わたしは普通に寝ちゃってました…」
ミリエッタ「あは…それは何よりです…」

ぐったりとしたミリエッタとは対照的に、シャロンは元気そうだ。
キャストである彼女は、エネルギーが尽きれば糸が切れたように眠るし、一晩寝れば文字通り“フル充電”といった具合らしい。
だが、そんなシャロンも、昨夜の出来事が頭から離れないのはミリエッタと同じだった。

シャロン「“ハッピーエンドしか見えておらぬのか”って言われましたが…確かにそう、なんでしょうね」

ティルトに投げ掛けられた言葉を思い返す。

シャロン「なんとなく、ですけれど…なんとかなるって、そう思ってるんです」
ミリエッタ「うん…私だって、そう願ってます…」

外面に変異が及ぶまでに進行した、ハミューの侵食。
それでも、シャロンは希望を捨ててはいなかった。
どんなに絶望的な状況だろうと、このまま諦めたりなどしたくはない。
そんな彼女に勇気付けられるように、そして自分に言い聞かせるように。
ミリエッタもまた、シャロンの言葉に同調するのだった。

ミリエッタ「っと…このお話は、他の人に聞かれちゃいけないんでしたよね」

ティルトの言葉が出た事で、そのティルトから、一連の事態については他言無用と言われていた事を思い出す。
ミリエッタはチーム回線での会話を切り上げると、カウンターでキャンプシップの発進申請に取り掛かる。

ミリエッタ「今からそちらに向かいますから…」

任務中のシャロンに合流するよう手続きを済ませると、ミリエッタは足早にゲートへと向かった。


シャロン「…実は昨日、ナゴミさんが普通にお話、しちゃっているんですけれどね…」
ミリエッタ「えっ…そうなんだ…!?」

シャロンの設置したテレパイプを通り、ナベリウス凍土地域に降り立つミリエッタ。
そんな彼女に、目の前のシャロンから衝撃的な言葉が伝えられた。

シャロン「止めたんですが、コハクさん達に私もせがまれて…全部、話してしまいました…」

ばつが悪そうな顔で、シャロンが続ける。

ミリエッタ「まぁ…ナゴミちゃん、全然隠すつもりはなかったみたいだったし…うん…」
シャロン「ナゴミさんを止める方法を知りたいです~…」

ハミューの身に起きた事は、既に隊員達の間に知れ渡っているらしい。
ティルトの口止めも、ナゴミの前では無意味だったようだ。
どこまでも真っ直ぐなナゴミの性格を思えば、当然の結果かもしれないが。

ミリエッタ「あはは…でもそれはそれで、私も隠さなくて済む、という点では気持ちが楽にはなったかな…」
シャロン「…それもそうかも、しれませんね」

口止めされたとは言え、隠し通す自信もなかったミリエッタは、小さなキャストの少女に内心感謝するのだった。

シャロン「あ、それとこのことはティルトさんも知ってます、です。…その上で私達みんなのできることは1週間後、です」
ミリエッタ「そうですか…あとはもう、ティルトさんとリディスさんに任せて待つだけ、ですね…」
シャロン「はい…みんな、やっぱり腑に落ちない気持ちでいっぱいでした…コハクさんなんてティルトさんの態度に凄くイライラして…」
ミリエッタ「はぅ…」

任務の合間にシャロンから語られる、昨夜のチームルームでの事の顛末。
とは言え、さほど大きな進展があった訳ではない。
他の仲間達に対しても、ティルトは詳しい事を何一つ明かさぬままで。

シャロン「でも、任せるしか、なんですよね…わたしはティルトさんを信じます、です」
ミリエッタ「うん…私だって、ティルトさんの事は信じてます…」

結局、すべてはティルトに任せるしかない、という状況に変わりはなかった。


ミリエッタ「ふぅ…お仕事完了、っと…」
シャロン「はい、お疲れ様、です!」

程なくして任務を終えたシャロン達は、キャンプシップへと帰還する。

ミリエッタ「はぁ…ハミューくんの事は待つしかないって分かってても、ツライな~…」
シャロン「そう、ですね…何かできるってわけでもないですが…」
ミリエッタ「うん…」

一息つくと、二人の思考は再びハミューの事へと向かっていた。

ミリエッタ「昨夜も少しお話しましたけど、私…」

不意に伏し目がちになったミリエッタが、声のトーンを落として呟く。

ミリエッタ「ハミューくんの身体がダーカーの侵食を受けてる事、気付いてたんです…。
      だけど、本人にはとても言えなくて…」
シャロン「…そうだったのですね…」

ハミューに触れ、彼のフォトンに混じる違和感に気が付いたあの夜。
ミリエッタはその正体を察しながら、しかし、少年に残酷な現実を突き付ける事ができなかった。
結果、ハミューは自らを蝕む病魔の存在を知ることなく、ダーカーとの接触という禁忌を侵し続けてしまったのだ。

シャロン「…でも、仕方のないこと、だと思うです」
ミリエッタ「…だけど…っ…もっと、何かできることがあったんじゃないか、って…」

もしあの時、ハミューに真実を伝える勇気があれば。
伝えられないまでも、彼を危険から遠ざけるよう努めていれば、このような事態は避けられたのではないか。
侵食の事実を知りながら、何もできなかったという自責の念が、ミリエッタを苦しめていた。

シャロン「ハミューさんは頑張り屋さんですから…多分、変わらなかったと思います。
     だからダーカーと戦っちゃいけないって約束、何度も破っちゃったんです…。
     どうか、自分を責めないでください、です。
     遅かれ早かれこうなっちゃうのは、ティルトさんも分かっていたと思いますし…」
ミリエッタ「うぅ…」

その想いを察したシャロンが必死に慰めるが、ミリエッタの瞳は透明な雫を湛えていく。

シャロン「まぁ…私も今のミリエッタさんと同じく、もっと何かできたんじゃないかってのはあります、けど…」
ミリエッタ「…うん…昨夜もずっと、そんな事ばっかり考えちゃって…
      夢の中にまで、ダーカーになっちゃったハミューくんが、出てきて…っ…!」

昨夜の悪夢を思い出し、抑えていた感情が一気に溢れ出す。
ミリエッタは堪らず、シャロンに縋り、咽び泣いていた。

ミリエッタ「…ぐすっ…えぅぅ…っ…!」
シャロン「わわっ……それは確かに眠れません、よね…」

突然の事に驚きながらも、ミリエッタを抱き止め、その背を撫でるシャロン。
全身に生体パーツを用いたシャロンの身体は、機械である事をまるで感じさせないほどに柔らかく、温かかった。

ミリエッタ「…ぐすんっ…うぅっ…すみません、こんな…」
シャロン「いえ、大丈夫、です♪」
ミリエッタ「…ふぁい…ありがとう、ございます…」

ミリエッタはシャロンの胸に顔を埋めたまま、小さく震えている。
そんなミリエッタの様子を、シャロンは優しい眼差しで見つめていた。
そして、静かに、諭すように……腕の中の少女へと語りかける。

シャロン「忘れる、なんてできませんが…1週間…待ちましょう…♪」
ミリエッタ「…はい…っ…」
シャロン「それが私達にできることって、言われたんですからそれをするだけ、です」
ミリエッタ「…うん…そう、ですね…」

いつしかミリエッタの震えは止まり、乱れた呼吸は落ち着きを取り戻していた。

ミリエッタ「………」

二人きりの空間を支配する、暫しの静寂――

ミリエッタ「…お願いです…もう少しだけ、このままで…」

すっかり泣き止んでいたミリエッタだが、シャロンから離れようとはせず、その細い身体をより一層ぎゅっと抱きしめるのだった。

シャロン「…はい、私で良ければ…♪」

甘えるミリエッタを受け入れて、再びその背中を慰撫するシャロン。

ミリエッタ「はぅ…こうしてると、シャロンさんのフォトンがよく伝わってきます…優しくて、暖かくて…」

シャロンの腕の中でミリエッタは目を閉じ、ぴったりと触れた肌から流れ込むフォトンを感じていた。
労わり、温もり、慈しみ――それはシャロンの心、魂の波長とも言えるもの。

ミリエッタ(…どこか、力強くって…?)

ただ、その優しい流れの中に1つ、力強さを感じさせる波があった。
かすみやイオリに抱きしめられた時とは違う――彼女らも“強い”女性ではあるが――、「逞しさ」とでも表現すべきだろうか。
しかし、その感覚すらも心地良くて。
ミリエッタは安堵に身を委ね、まどろむように微笑んでいた。

シャロン「そ、そう、なんですか…?自分のフォトンなんてまったくわからないですけれど…」
ミリエッタ「あは…自分のだと、普段から当たり前のように感じてるから、分からないかもしれませんね~」
シャロン「それもそうかも、ですね…♪」
ミリエッタ「…うん…落ち着きました…ありがとう、もう大丈夫ですっ」

名残惜しそうにしながらも、そっとシャロンから離れるミリエッタ。

シャロン「それならよかったです♪でも、また不安だったりしたらまた、こうしてあげますからね?」
ミリエッタ「はい…ありがとうございますっ」
シャロン「これでも私は17歳のおni…お姉ちゃんだからねっ♪」
ミリエッタ「……?
      …ん…そう、ですね…」

“お姉ちゃんだから”。
その一言を発するのに一瞬、不自然に言葉に詰まるシャロンだったが。

シャロン「それでは、戻りましょうか♪」
ミリエッタ「はいっ!」

ミリエッタはさして気にする事もなく、その瞳を赤く泣き腫らしながらも、心からの笑顔を見せるのだった。


[関連文書]
 episode.3 Connect        (ティルトのストーリーセッション表)
  ├ ナゴミex「言えなかったこと」 (イオリ・チアキ・ナゴミストーリーセッション)
  └ 優しさに抱かれて       (ミリエッタのストーリーセッション)

【中の人より】


  • 最終更新:2015-09-14 01:17:02