優しき影

敵対していたはずの彼を説得しチームルームにまで誘ったティルト達、彼女等から託された通信機から
発せられた文書は彼を説得した誰でもなく、彼自身に当てられた。

何度殺そうとしても殺せない、その原因はお前にある。
限りなく0に近いこと知っていた、それでも幻影は彼との決着を付けたがった。

「……来たか、コハク」

「お前さんが……そうか」

黒衣を纏ったコハクと白黒の鎧を身に付けたコハクが対峙する。二人は最早同一人物とは思えない程に
雰囲気が違ってしまっていた。
その意思も、考えもまるで違う、反発する精神はそれでも同じ言葉を紡いだ。

『問答は不要』

その言葉を口火にして火花が散る、拳と拳がぶつかり合うも双方の攻撃は全て相殺し合う。
幻影の連打に対しコハクがそれを掻い潜ってわき腹を狙い剛拳を繰り出す、だがその一撃さえまるで最
初から読まれていたかのように黒い篭手に阻まれた。
即座に放たれるカウンターに対し素早く距離を取るコハク、だが幻影もそれと同じスピードで更なる追
撃を試みる。構えなおしからの疾走、そして一閃撫で斬るような一撃はコハクを怯ませるため、本命の
斬り払いが彼の後ろから首を落としにかかる。

「明桜・彼岸鱗」

コハクの首を紅い鱗が覆い刃を受け止めた、咄嗟に刀が引かれ浅い傷を残して刃が彼の首を離れる、幻
影に出来た一瞬の隙を見逃さずにコハクが体を捻り裏拳を打ち込む、咄嗟に篭手で防いだ幻影だったが
その篭手には亀裂が入ってしまっていた。
距離の開いた双方が同時に武装を解除する、呼応するように彼等の姿が変化しその場には二頭の人なら
ざる者が現れた。
彼の身を包む紅の鱗は灼炎を思わせ、彼の龍を包む白毛は浄化の光を孕む。
彼の身を包む紅の鱗は劫火を具現し、彼の龍を包む黒毛は深淵の闇を抱く。

巨大な爪が互いの身体を引き裂き、滴る血が豪炎によって即座に蒸発する、先ほどとは一転して双方が
防御を捨て、ひたすら互いの身体を痛めつけ合った、太く束ねられた尾が黒き龍を吹き飛ばし、即座に
距離を詰めた黒き龍の咆哮が白き龍の身を灼き尽くす、炎のを裂いて現れた牙が黒き龍の喉元に抉り込
み、捻られ鋭く尖った6本の尾が白き龍の鱗の隙間から潜り込んで内臓を滅茶苦茶に引っかきまわす。
弾かれるように離れた二頭が地を蹴り、空中へと舞い上がった、翼を拡げその身をぶつけ合う、剥がれ
落ちた鱗が地に落ち、滴る鮮血が互いの身を染め上げてゆく、目にも留まらぬ速さで彼の龍がぶつかり
合う度に大気が震えた。
幾度かの攻防を終え、限界を迎えた龍は人の姿へと戻った。
幻影に闇が重なる、漆黒の翼を拡げその身から血を、命を垂れ流しながらもその刃を向けてくる、コハ
クはそれに応じるように自らも翼を拡げ刃を構えた。
閃く4つの刃が肉を裂く、コハクと幻影は翼を失い地に墜ちた。

「俺の、願いは……」

「そうか、お前さんは……」

意識が沈む、周囲を包む闇は彼等を優しく抱き、差し込む光は彼等を癒す。
幻影は全てを悟り、時は再び動き出す。永久の輪廻を紡ぎだすために。

  • 最終更新:2015-10-30 15:53:10