ナゴミst4「アークスを、つづけたいの」

        ロビーに顔を出せない日がつづいていた。
        今C隊のメンバーと会っちゃったら、別れのあいさつをしなきゃいけないような気がして。

    ナゴミ「はぁ……どうしたらいいんだろ……」

        それでも自然と足がここへ向かったのは、今思えば助けを求めてだったのかもしれない。

    ナゴミ「アンタは気楽そうでいいわね」

        チームシップで光をはなつフォトンツリーは、今日もきらきらとして元気そう。
        指先でちょんちょんと小突くと、抗議するようにゆらゆらとゆれる。

     光一「あ、お疲れ様?どうしたの?」
    ナゴミ「あ、コーイチ……こんばんは。別にどうもしないわ」
     光一「そうかな?あ、横座ってもいい?」
    ナゴミ「な、なんでよ」

        思わず不満気な声が出る。
        コーイチ、いつもにこにことしてて、なんか何もかも見透かされてるみたいな感じがして苦手。

     光一「ん、じゃあ横に立ってるね。ナゴミちゃんが元気無い気がしたから、ちょっと気になってね」
    ナゴミ「べ、別に立ってろなんて言ってないわよっ」

        あわてて答える。
        あたしは座ってるのに、その横でコーイチだけ立ってるなんて居心地が悪い。

     光一「あ、じゃあ座らせてもらうね」
    ナゴミ「げ、元気ないわけじゃないし……」
     光一「そうかな?何かあった?」
    ナゴミ「べ、別になにもないわよ!」
     光一「ほんとうに?」

        一瞬ことばに詰まる。なにもないわけじゃない。けど。

    ナゴミ「ほんと!」

        言えなかった。

     光一「僕に話せないことかな?」
    ナゴミ「そういうわけじゃないけど……」
     光一「話せないことじゃないけど、何かあったんだ?」
    ナゴミ「な、ないってば!」

        言えない。言いづらい。けど。

    ナゴミ「ないけど……」

        コーイチには、話してみてもいいかもしれない。

    ナゴミ「……ねえ、コーイチはなんでアークスになったの?」
     光一「え?僕?」

        コーイチがきょとんとする。
        こういうのなんていうんだったかな……ハートが豆でぽっきりいった顔だっけ?

     光一「うーん……そうだな。あはは、僕はなろうと思ってなったというか……うーん、なんていえばいいんだろうな」
      .。o(単なるアークスシップで活動する為の仮の肩書き、とは言えないよね……)

        コーイチは少し考えこむ。

     光一「まあ……今ここにいるのは、家族がいるから、かな?」
    ナゴミ「じゃあ、家族がいなかったらアークスにならなかった?」
     光一「んー……家族がいなかったらか……そうかもね?」
    ナゴミ「じゃあ、えっと……」

        あたしがどうすればいいか聞いてみたい。
        でも直接それを聞きたくはない。
        えっと、あたしはお金を返したくてアークスになって、コーイチは家族がいるからアークスになったんだから、えっと……?

    ナゴミ「あれ? えーっと……」
     光一「うん?どうしたの?」
    ナゴミ「ま、まって、ちょっと整理してるの!」

        家族がいたからアークスになったってことは、家族がいなくなったらアークスやめるってことかな……。

   ハミュー「あれ?こんばんわー」

        考えがまとまってきたあたりでハミューがくる。
        まとまる前に話しかけてきてたらぶっ飛ばしてあげるとこだったわ。

        そういえば、あたしがチームルームで寝ちゃったときにかけてくれてたハミューのコート、まだ返してなかったのを思い出した。
        でも、返しちゃったらもうここに戻ってくる理由がなくなっちゃう気がして、なんとなく返せない。

    ナゴミ「もし、もしも、家族が家に帰ったらコーイチもアークスやめるの?」
   ハミュー「そうなんですか??」
     光一「あ、えっと……そうだな……ちょっと悩むかな?」
    ナゴミ「なやむの? なんで?」

        家族がいるからアークスになったんだから、家族が帰るならアークスでいる必要がなくなるじゃない。
        それなのに辞めないの?

     光一「うん、まあきっかけは家族がいたから……だけど、今は僕もみんなと知り合いになったし、離ればなれになるのは……ね。
        ハミュ君やナゴミちゃんに会えなくなるのは寂しいしね」
   ハミュー「あえなくなるんですか?」
    ナゴミ「……」

        会えなくなる。
        そっか。そうなんだ。
        ここ最近、毎晩あたしの心を突き刺してる感情は、きっと寂しさなんだ。
        コーイチやハミューや、C隊のみんなと会えなくなるのが寂しいんだ……。

    ナゴミ「……ぐすっ……」
   ハミュー「え?……ど、どうしたの……?」
     光一「え、どうしたの?」
    ナゴミ「ど、どうもしないっ!」

        思わずこぼれた涙を見せないように、二人に背中を向けて目元をごしごしとこする。

   ハミュー「……何かあったら言ってね?なごみちゃんは笑顔が一番なんだからっ」
    ナゴミ「な、なにもないわよっ!」
   ハミュー「あはは、うん、そっか」
     光一「うんうん、僕も元気なナゴミちゃんが見たいな?」
    ナゴミ「あたしはいつも元気だもんっ」
     光一「ナゴミちゃん、なんていうかきっかけというか、始まりはどうか分からないけど、
        僕はアークスに来て、C小隊に入ってよかったと思ってるよ」
    ナゴミ「よかった?」
     光一「うん、みんなに会えたしね?今はみんなといるのも楽しいし。姉さんに呼ばれてちょっと来ただけだったけどね」
    ナゴミ「……でも、」

        いくら寂しくても。
        あたしがアークスでいる理由は。ここにいる理由は。

    ナゴミ「借りてたお金、もうぜんぶ返しちゃったもん……」

        もう、なくなっちゃった。

    ナゴミ「そしたらママとパパがね、もうアークスつづけなくていいって」
     光一「うん?」
    ナゴミ「好きなことしていいんだよって。中学校の編入手続きもおわったからって」
   ハミュー「学校にいくの?」
    ナゴミ「うん……そしたら好きなお仕事できるようになるからって」

        ママとパパが言ってるのは、きっと正しいことなんだと思う。
        二人とも昔はがんばってお勉強して、今のお仕事好きって言ってたから。
        でも、どうしてかあたしはそうしたくなくて。

     光一「ん、そっか。ナゴミちゃんは中学校に通ってる年齢だもんね」
   ハミュー「うん、僕も学校っていってみたいですねっ」

        ハミューのそのことばに、無性にムカッときて。
        ハミューはあたしと会えなくなっても寂しくないの!?

    ナゴミ「……行きたいなら行けばいいじゃない! バーカバーカ!!」

        思わず怒鳴っちゃった。

   ハミュー「え?何か怒るような事いっちゃった……?」
     光一「ナゴミちゃんは……行きたくない?」
    ナゴミ「わかんないわよ!」
     光一「そっか、ごめんね。」
   ハミュー「僕は……賢くないから、わからないならわかるまでとりあえずやっちゃうかな……あはは」

        あやまるようなことじゃないのにあやまるコーイチ。
        あたしだって、どうして自分がこんなにイライラしてるのかわかんない。

    ナゴミ「あのね、学校には……いきたいかもしれないの。前の学校で仲のよかった子がいるって……」
     光一「うんうん」
    ナゴミ「でもね、いきたくないの」
   ハミュー「それは羨ましいですね……って、そうなの??」
    ナゴミ「あたし、どうすればいいのかな……」
   ハミュー「行きたくない……のはどうして?」
     光一「行きたいけど行きたくない……うん、行きたくないのはどうして?」
    ナゴミ「……わかんない」
   ハミュー「……そっか……じゃあ僕も一緒に考えるねっ」
    ナゴミ「うん……」
     光一「うん、ハミュ君優しいね」
   ハミュー「そ、そんなことないですよっ」
    ナゴミ「あのね、大学まであるとこなんだって」
   ハミュー「一番上の学校、だよね?」
    ナゴミ「キョーヨーのあるりっぱなれでぃーをイクセーするとこなんだって」
     光一「そうだね?大学まである……うん、ナゴミちゃんを立派に育てたいんだろうね」
    ナゴミ「入ったらなんかいろいろ忙しいらしくて……」
   ハミュー「やっぱり忙しいのかな……」
    ナゴミ「お仕事しながら通うのはむりなんだって。それ聞いたら、いきたくなくなって……」
     光一「うんうん……ナゴミちゃんはお仕事したいってことだね?」
   ハミュー「うん……なごみちゃんはおしごとが好きってことかな?」
    ナゴミ「……わかんない」
アーデルハイド「……んん、お取り込み中かしらん?」
    ナゴミ「あ、こんばんは」
   ハミュー「……あ、アーデルハイドさん、お疲れ様ですっ」
     光一「あ、こんばんは。」
アーデルハイド「はろーはろー」
     光一「ううん、なんか軽い悩み相談ってところかな?」
   ハミュー「ちょっと考え事してましたっ」
    ナゴミ「べ、別になやんでなんかないわよっ」
アーデルハイド「悩みかぁ、悩めるのは生きてる証拠証拠」
   ハミュー「あ……たしかにそうですねっ」
    ナゴミ「クロトとかファイナのお仕事してるときは、はやくおわらせてお金だけくれればいいのにって思ってたのに」
     光一「あはは、そうだね。今は終わらせたくないって感じかな?」
    ナゴミ「おわらせたくない……そうなのかな」
     光一「つまり……そうだね。アークスでお金を稼ぐ必要はなくなったけども、このまま学校に行かされるのは……ってことだね?」
   ハミュー「なごみちゃんはアークスを続けたいってことかな?」
    ナゴミ「……うん」

        そのことばが、すとんと胸に落ちてきて。
        そっか、そうなんだ。
        あたし、アークスつづけたいんだ……。

    ナゴミ「……うん、ありがとっ。ママとパパに話してくるっ」
   ハミュー「……うん、なごみちゃんのやりたいこと、これがきっと大事なんだと想う」
     光一「あ、大丈夫?」
    ナゴミ「だいじょぶ!」
     光一「ちゃんと説明できる?」
    ナゴミ「だれに言ってるのよ!」
   ハミュー「なごみちゃんならきっと大丈夫、ですよねっ」
     光一「うん、それなら大丈夫かな……うん。ナゴミちゃんの両親もナゴミちゃんを思ってのことだから……優しく言ってあげてね」
    ナゴミ「うんうん、ちゃんとわかってるわよっ」

        ここにきたときの気分がうそみたいに、心が軽い。

    ナゴミ「あ、ハミュー」

        コートを返さなきゃいけなかったことを思い出して、手渡す。

    ナゴミ「これ、ありがとっ」
   ハミュー「あ……うん、ありがとっ」
    ナゴミ「それじゃあたし帰るね! バイバイ」
   ハミュー「うん、またねっ」



        ママ、パパ、あたしね、やりたいお仕事見つかったよ。
        アークスを、つづけたいの。

  • 最終更新:2015-09-15 01:07:26