ナゴミst3「アークスを辞める?」

「なぁに、話って?」

 借りてたお金をぜんぶ返しきって、何日かたった。
 なんのお話だろう……ぜんぜん思いつかない。

「うん、実はね、ナゴミ……中学校の編入手続きができたんだ」
「え……?」

 中学校? 編入?

「パパと一緒に見に行ったけど、いい雰囲気の学校だったわよ。前の学校と違って、キャストの子もいっぱいいるって」
「えっ? で、でも学校って……あ、あたしお仕事あるし……」
「ナゴミ、言ってただろう? お金を返したくてアークスになったって」
「え? う、うん……」
「借りてたお金はちゃんと返して、生活費も余裕ができるはずだから、ナゴミがお仕事をする必要ももうないんだ」
「…………」

 もう、必要ない……?

「これからはもう、好きなことをしていいんだよ、ナゴミ」
「好きなこと……?」
「ああ。学校を出れば、やりたいお仕事に就けるから」
「やりたい、おしごと……」

 借りてたお金は返した。
 つまりそれは、あたしがアークスになろうと思った理由が消えたってことで……

「ナゴミは何になりたいって言ってたかな」
「前は確かケーキ屋さんになりたいって……」

 つまり……それは……

「動物園に行ったときは飼育員になりたいなんて話も……」

 アークスを、やめるって、こと……?

「ナゴミ?」
「……ぁ、え?」
「どうかした?」
「う、ううん、なんでもないっ」

 パパとママの会話が耳に入ってなかった。
 あたし、今なんかヘンだ。

「き、今日はなんか疲れちゃったみたいだからもう寝るねっ、おやすみっ」

 逃げるように布団の中へともぐった。



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「…………」

 家族みんなが寝静まったあとも、あたしは寝付けないでいた。

 アークスを、やめる。
 別に大したことじゃないもん。

 だって、そう。
 いっぱいお金稼げるから選んだだけ。

 それなのに。そのはずなのに。



 前に出るあたしがピンチにならないように、うしろから助けてくれたゴトーが、
 ニコニコとくっついてきて、さりげなくじゃまなエネミーを相手してくれてたコーイチが、
 足引っ張りそうとか言いながら、あたしの体力がなくなる前に回復してくれたゼルダが、
 一緒に前に出て、隣でエネミーを次々に倒しちゃうティルトが、
 文句ひとつ言わずに手伝ってくれて、ときどきなでなでもしてくれるロウフルが、
 いつもは頼りないくせに、もしかしたらあたしより強いかもしれな……ううん、そんなこと絶対ないけどハミューが、
 普段は優しいお姉さんだけど、戦いのときには強いエネミーもうしろからあっという間に沈めちゃうイリアが、

『おめでとうっ』
『お金…ナゴミさんも大変なんですね でも全部返せるんですね! よかったです!』

 これでぜんぶ返せるって言ったときのハミューとイルマの笑顔が、

 ぎゅっと閉じたまぶたの裏に、浮かんでは消えていく。

「一緒にお仕事することも、なくなっちゃうってことよね……」

 ぽつりと口にしたら、津波のように胸に押し寄せてきた激情。
 名前もしらないその感情が胸に刺さって。



 夜がこんなに長いなんて、知らなかった。

  • 最終更新:2015-09-15 01:07:02