ナゴミst2「稼いだお金の使い道」

「パパ、見て見て!」

 いっぱいのお金が入った通帳をパパに見せる。
 これ、ぜーんぶあたしがかせいだのよ。

「おー、いっぱい稼いだな、ナゴミ」

 パパがなでなでしてくれる。
 ほめられるのはうれしいし、なでなでもうれしくて二倍!

「これだけあれば、借りてるお金ぜんぶ返せるわよね?」

 見上げたパパの目は、いつもと変わらない優しさで。

「ありがとな。でも大丈夫だよ、借りてるお金もあと少しだし、パパお給料上がることになったからね」

 その分お仕事も忙しくなっちゃうけど、と付け加えるパパ。



 なんか、せっかくうれしかった気持ちがあっという間にしぼんでいって、頭の上から冷たい水をぶちまけられたみたいな寒さに襲われる。

 なんで?
 どうしてあたしのお金じゃ返させてくれないの!?

 ママに話したときもそうだった。
 ママもパパも、自分たちだけで返そうとして。



 そもそもあたしのせいで借りることになったお金なのに!



「どうして……?」
「うん?」
「このお金を使えばすぐ返せるじゃないっ!」

 パパがあたしをぎゅーっと抱きしめて、なだめるように背中をぽんぽんと叩く。
 それがうれしくて、でも子ども扱いされてるみたいでイヤな、フクザツな気分。

「ナゴミ、ちゃんとお仕事で必要なものは揃ってるのか?」
「……!?」

 その言葉にぎくりとする。
 隠してた悪い点のテストを見つけられたときみたい。

「今、すっごく大変な地域の仕事も受けられるようになったって言ってたな? ええっと、何だったか……」
「あ、う、うん……えっと、エ、エク……そう! エクレアハードっ」
「ああ、そうだったな。そのエクストラハードの地域で、ちゃんと通用する道具を揃えてるのか?」
「そ、そんなの当然じゃないっ!」

 なんとなくパパの目を見られなくてそらす。
 実を言えば、C隊の仲間と一緒ならそこまででもないものの……一人だったり、見知らぬアークスたちと行くときには、ちょっと頼りないなって思うことも増えてきたから。

 そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、パパが話題を変える。

「小学校のときの担任だったフジサワ先生、覚えてるか?」
「あ、うん、覚えてるわ」
「この間妹さんと一緒のときにママが偶然会ったそうでな、少しうちに呼んでおしゃべりしたんだって」
「妹さん?」
「ああ、アークスだそうだぞ」

 ぎくりとした。

「ナゴミは、あんまり性能のよくない武器を使ってるみたいだね」
「っ!? で、でもそれはっ!」
「危険と隣合わせの仕事なんだから、ちゃんといい道具を揃えなさい」
「でも、でも……! あ、あたしは、だって……!」

 パパの言ってることは、ほんとにその通りで。
 言い返したいのに、なにを言えばいいのかわかんなくて。



 ずっとずっと、アークスになる前からあたしの中にあった気持ちはたったひとつ。
 それは――。

「だって、だって……あたしのせいで借りたお金じゃないっ!」

 もともと住んでたお家も車も売って、遊園地や動物園に遊びに行くこともなくなって。
 ぜんぶぜんぶぜんぶ、あたしのせいなのに!

 でも、パパは。

「そんな狭い心で親をやってるつもりはないよ、ナゴミ」
「でも、でもっ……! あ、あたしだって……!」

 あたしだって。



「だってあたしは、借りてるお金を返すためにアークスになったのに!」



 それをなんとかしたくて、必死で考えてアークスになることにしたの。
 だから、道具を揃えるのなんかより早く借りてるお金を返さなきゃいけないの。
 武器を揃えるのにはお金がかかるから。
 そんな使い方をしたら、返すのにもっと時間がかかっちゃうから。

 そう、言いたいのに。
 どうしてなのかな、寒くて……息をするたびに体がふるえちゃって上手にしゃべれない。

 パパが服の袖であたしの目元をごしごしして、そこで初めて自分が泣いてることに気づいた。

 言いたいこともちゃんと言えないで泣いちゃうなんて、子どもみたい。
 そんなあたしを、パパは「しょうがないなぁ」みたいにため息をついて、優しくなでなでしてくれる。

「……ナゴミ、道具揃えたらどれくらいお金かかりそう?」
「ひぐっ、えぐっ……わ、わがんなっ、っぐ……た、だぶん、100万か200万ぐらいっ……するがも……っ、ぇ……」
「そうか、じゃあ……半分だけ使わせてもらうね」
「ぇ……? う? 半分……?」
「うん。ナゴミが稼いでくれたお金、半分はお金返すのに使おう。残りの半分は、ナゴミの道具揃えるのに使いなさい。それでいい?」

 半分だけ。
 でも、あたしのせいで借りたお金、ちゃんとあたしも返せる。

「……うん……うん、わかった」

 ちゃんとした武器を揃えて、またいっぱいお金貯めて。
 そうしたら、今度こそ、なにも言わないでちゃんとぜんぶ受け取ってね、パパ。

  • 最終更新:2015-09-15 01:05:32