ナゴミst1「あたしも返したいの!」

「ママ」
「あら、どうしたの、ナゴミ?」

 夕飯の準備をするママのところへ。
 ママはきゃりあうーまんで、いつもは帰りが遅くて作ってもらえないから、今日みたいなお休みの日はママのごはんが楽しみ。
 パパは今日もお仕事だけど、ママのごはんの日はいつもよりちょっとだけ早く帰ってくる。

「何かお話?」
「あ、えっと……ば、晩ごはん何かなって」

 言い出すのがなんだか照れくさくて、とっさに嘘をついてしまう。
 するとママは持ってた包丁を置いて軽く手を洗い、タオルで拭きながらあたしをじっと見つめる。
 ママにはあたしのこういうとっさの嘘が通じた試しがない。

「話なら聞くわよ?」
「……えっと」

 不思議なのだけど、ママにこんなふうに聞かれるとすんなり話せてしまう。
 おまわりさんにでもなって、犯人から話を聞く役でもやればいいと思う。

「あのね、あたし、アークスのお仕事してお金いっぱいかせいだの。だから、あたしも借金返したい」

 預金通帳を取り出して見せる。
 イリアやゼルダ、ティルトと行ったお仕事でもらった、いっぱいのお金。
 まだ全部には足りないと思うけど、少しは役に立つはずだもん。

 ママはその数字を見て、目をまん丸くした。

「ナゴミ……えっ、こんなに……!?」
「う、うん」

 照れくさくて、でもちょっと誇らしい。
 ママがびっくりするくらいかせいで、あたしも家族の一員として借金を返すんだ。


 ――もとはといえば、あたしのせいでできた借金なんだから。


 ママがあたしをぎゅーっと抱きしめて、頭をなでてくれる。
 ママの匂いってすっごく落ち着く。

「ありがとう、ナゴミ。ママすっごくうれしいわ。
 でもね、このお金はあなたが働いてかせいだ、あなたのお金よ。あなたの好きに使っていいの。
 パパとママなら大丈夫、いっぱいお仕事してるから、ちゃんと……」
「ママ」

 ママの言葉をさえぎる。
 うん、ママ。そんなのわかってるわ。だから、あたしはね。

「あたしは、あたしの好きに使うの。だから、借金を返したいの」
「ナゴミ……」

 ママは何度か、何か言おうとして、やめて。
 最後には、どこかで見たことあるような、寂しいようなうれしいような困り顔で笑ってあたしを抱きしめた。

「……ありがと。でも、ちゃんとパパにもお話してから決めるのよ?」
「うんっ!」

 ママに、一人前の大人だと認められたみたいな誇らしい気分!
 うれしくて、浮かれてた。


 だから、忘れてた。気づかなかった。


 危険度の高いお仕事の武勇伝を語ったとき。
 あたしがアークスになるって言ったとき。
 そして、あたしに、手術のために借金をしたってことが知れたとき。

 ママもパパも、この表情であたしを見てたことを。


 お互いが大事だからこそ起きる、すれ違いを。

  • 最終更新:2015-09-15 01:05:12