スタートライン

時計の針は、約束の時間を指していた。
緊急警報や大規模作戦も無く、人もまばらなゲートエリア。
少女はキャンプシップ搭乗口横のソファに腰を下ろし、小さくため息を溢す。

リリーパ地下坑道・特別警戒地域に対する、特務先遣調査――
リティ・ロウは、これから向かう事になる任務に頭を悩ませていた。
アークスになってまだ間もない彼女には、少々荷の重い仕事だ。
知人の男性キャストと協働する予定だったのだが、別件で都合が付かなくなったと、直前に同行を断られてしまった。
代わりに同じチームの仲間に協力を頼んだ、と彼は言っていたが……

ミリエッタ「え~と…このあたりで、そろそろ時間ですよね?ミアさん…」

遠くから聞こえてきた声に顔を上げると、周囲を見回しながらロビーを歩く女性アークスが2人。

ミア「たぶん、そのはず……リティさん?はもう来てるのかな?」
ミリエッタ「金髪で、メガネを掛けた女性の方…う~ん…?」

1人は、女性らしい曲線を描く身体つきと、見事な縦巻きロールが印象的な少女。
もう1人は対象的に、小柄で幼さの目立つ、ミディアムストレートの少女。
彼――グリム・E・ジャガーノートから伝え聞いていた、チームメイトの特徴の通りだった。

ミリエッタ「ぁ…」
lity「ん…」

小さい方の少女と目が合う。
2人がリティの方へと近づき、話し掛けてきた。

ミリエッタ「こんばんは…リティさん、でしょうか~?」
ミア「こんばんはー」
lity「ジャガーノートの知り合い、チームメンバー?」

彼女らの口から、リティの名が飛び出す。
やはり2人が、グリムが声を掛けてくれた協力者のようだ。

ミリエッタ「はいっ、グリムさんからお話を伺って参りましたっ。
      C隊所属のミリエッタと申します!よろしくお願いします~」
ミア「ですですっ。わたしはミアといいますー」
lity「…なるほど。
   リティ、リティ・ロウ。よろしく」

3人の少女は、互いに自己紹介を交わす。

ミリエッタ「それで、今日は…先遣調査のお仕事、でしたっけ…」
lity「そう、地下坑道に行く」
ミリエッタ「地下坑道ですね、分かりました~」
lity「準備がいいなら、申請する」

顔合わせを終えたリティ達は、早速任務へと取り掛かる。
カウンターで出撃申請を済ませ、キャンプシップに搭乗。
ワープゲートを展開すると、惑星リリーパ周辺宙域へと飛び立っていった。


【惑星リリーパ上空、キャンプシップ内――】

リリーパ地下坑道・特別警戒区域への降下ポイント到着まで、あと僅か。
携行品の補充や作戦内容の確認の最中、ミアがリティに尋ねる。

ミア「どんな依頼でいかれるのですかー?」
lity「依頼?先遣、いつも通り」
ミア「普段通りの調査…ですねっ」

アークスの中には、自身の任務のついでに、一般員や他のアークスからの依頼をこなす者も少なくない。
依頼の内容は、気象観測や指定物資の回収など様々だが、任務本来の目的に加えて、成すべき事が増えるのは確かだ。
ミアは、それらの依頼に関しても気を遣っていたようだ。

lity「特別な事はしない、大丈夫」
ミア「はーい」
lity「…ただ、正直」

今回はそういった依頼の類は受けておらず、アークス本部から指示された仕事だけを果たせば良いのだが。

lity「一人だと、キツい」
ミリエッタ「特別警戒地域は、ダーカーの侵食も激しいですからね…」

危険度の高い、特別警戒地域での任務。
今の自分の実力では困難な事を、リティは十分理解していた。

ミリエッタ「でも大丈夫、3人いたら何とかなりますよ~」

そんなリティの不安を拭い去るように、ミリエッタが言う。

lity「…うん、来てくれただけでも感謝してる」
ミリエッタ「ふふ、グリムさんにはいつもお世話になってますし、お手伝いできる事があるなら…ね、ミアさんっ」
ミア「はいっ」

笑顔でそう語るミリエッタとミアを、リティは不思議な気持ちで見つめていた。

リティにはグリムの他に知人らしい知人もおらず、彼の協力を得られなかった時は、1人で任務に臨むしかないかと考えた。
グリムはチームの仲間に代理を頼んだと言ったが、見ず知らずの相手の手伝いになど、誰も来なくても当然だと思っていた。
だが、2人はグリムの頼みならと、こうしてリティのもとを訪ねてきたのだ。

lity「…チーム、か」

グリムと彼女らの繋がりを思い、ぽつりと呟く。
普段は温厚で人当たりの良いグリムの事だ、ミア達とは、さぞ良好な関係を築いているのだろう。

lity「…アイツらしい」

そんな事を考えている内に、キャンプシップが目的の降下ポイントに辿り着いたようだ。

lity「…準備、良い?」
ミリエッタ「はい、大丈夫です!」
ミア「どんと来いですっ」

コンソールを操作し、アドバンスカプセルを提示して認証をクリア。

lity「じゃあ、適当に進んで、奥のデカいのを倒しておしまい」
ミリエッタ「はいっ」
ミア「てきとうにてきとうにー」

オレンジ色のゲートを開くと、リティはその先のテレプールへと飛び込んで行く。
ミリエッタとミアも、その後に続いた。


【リリーパ地下坑道・特別警戒地域――】

作戦エリアに到達するなり双機銃を抜き放ち、奥へと続く道を駆け出すリティ。
ミア達もそれぞれの武器を手に、その背中を追い掛ける。
と、その時。

「りーーーっ!!」

すぐ近くから、リリーパ族の悲痛な叫び声が響く。

ミリエッタ「わ…?!」

声のした方を見ると、ギルナスアームに捕まったリリーパ族が、脱出しようと必死にもがいていた。

lity「…ちっ…」

思わず舌打ちするリティ。
任務が始まったばかりだと言うのに、こんな形で足止めを食うなんて。
苛立ちが募るが、アークスがリリーパ族を友好的な種族としている以上、無視をする訳にもいかなかった。
仕方が無しに臨戦態勢を取る。

このようなケースでは、直接ギルナスアームに手を出すと爆発する恐れがあるため、リリーパ族が自力で抜け出すのを待つしかない。
3人はその間ただひたすら、襲い来る機甲種たちを退ける。
しばらくの後、リリーパ族はやっとの事でギルナスの腕から逃れると、物陰へと消えていった。

lity「…やれやれ」

完全に出鼻を挫かれ、大きなため息を1つ。

ミリエッタ「ふぅ…よかった…」
ミア「ある意味普段通りですねっ」
ミリエッタ「あはは、確かにそうかもっ」

ふとミア達の方を見ると、2人はリリーパ族の無事を喜び、笑顔を交わしていた。
リティの胸中に、再び不可解な気分が湧き上がる。


――どうしてこの人達は、こんなにも……



だが、その思考は唐突に断ち切られる事となった。

「であぁ~~るぅぅぅ~~~……」

地下坑道を吹き抜ける風に乗り、奇怪な声が響き渡る。

lity「…!聞いた?」
ミリエッタ「今、何か聞こえましたね…!?」

きょろきょろと周囲の様子を伺いながら、通路を進む3人。

ミア「どこからかな…?」
ミリエッタ「こんな場所だし、音も反響してよく分からな…」

慎重に歩みを進めるリティ達だったが、その目の前に、それは突如として姿を現した。

ミア「?!」
lity「……」
ミリエッタ「って、出たぁっ?!」

円錐形の体にナマズのような顔、その手にステッキを持った巨大な生物が、回転しながら降りてくる。
Mr.アンブラの出現、3人は呆然とその様子を眺めていた。

lity「……」

珍妙な来訪者をしばらく見上げていたリティだったが、不意にアンブラに近づき、ツンツンとその胴体を突っつく。

ガツンッ!!

次の瞬間、リティ達の頭上にステッキの殴打が振ってきた。

lity「!?」
ミリエッタ「ぅー、いたたた…」

頭を押さえ、その場に蹲る3人。
アンブラは満足げに頷くと、現れた時と同じように、回転しながら上空へ消えていった。

lity「……何、あれ」
ミリエッタ「何、と言われると…説明が難しいのですが~…」
ミア「へんなおじさん…?」
ミリエッタ「…アンブラ様…幸運の神様、とか言われてるみたいですね…。
      あの杖で叩かれると、なんだか良い事がある…らしいです?」

リティは、アンブラを見るのは初めてだったようだ。
何者かと尋ねる彼女だが、アンブラの存在自体が不可思議過ぎて、ミリエッタもミアも説明に苦労する。

lity「…。…可愛いから撃たないけど」
ミリエッタ「…えっ…?」

最終的にリティの口から飛び出したのは、意外な感想だった。


lity「…ひとまず、エリア1終了」
ミリエッタ「うんうん、順調ですねっ」
lity「本当に順調…」
ミア「アンブラ様にも会えましたしねっ」

程なくして一行はエリア1の探索を終え、エリア2の入り口へと差し掛かっていた。

lity「…次」
ミリエッタ「はいっ」

リティに促され、先へと進むミリエッタとミア。
エリア2へと突入した3人の耳に、またしても奇妙な声が届く。

「追いかけられるのも燃えるけど…誰か助けてーっ!」

先程のアンブラと異なり、ハッキリと人間のものと分かる声。

ミア「?!」
ミリエッタ「ふぇっ!?」
lity「…人の声」
ミア「だ、だれか助けを呼んでます…!」
ミリエッタ「なんでこんな所に人が…!?」

アークスであっても、資格の提示無しには立ち入る事のできない特別警戒地域。

lity「…。要救助者…?
   にしては奥地過ぎる…」
ミリエッタ「う、うん…」
ミア「迷い込んだのかな…?」
lity「…どうする?」

こんな場所に要救助者が居るなど、あまりにも不自然だった。

lity「探す、探さない?」
ミリエッタ「でも、“助けてーっ”って聞こえたような気がしましたし…放っておく訳には…」
ミア「ええ、探しましょう…!」

探すべきか、否か。
その問いに対して、即答するミリエッタ達。


――どうしてこの人達は、こんなにも、誰かの為に動けるのだろう。


リティには、到底理解し難い行動。
だが、これまでの様子から、彼女達が捜索に向かおうとする事は容易に想像できていた。

lity「…分かった、探そう」
ミリエッタ「はいっ…」
ミア「調査にもなりますしねっ」
lity「うん」

予想通りの答えに頷くと、リティは坑道の奥へと視線を向けるのだった。


「ふー、ありがと!助かったよ!」
「ふぅ…助かりましたぁ」
「…いいからケーキ買って」

要救助者を探し、坑道を彷徨う3人の前に現れたのは、赤い色をした移動販売車だった。
助けを求めるケーキ屋三姉妹のもとに駆け付け、見事救援を果たしたリティ達。
もっとも、救援の対象となったのは姉妹達ではなく、散乱した積荷だったのだが。

ミリエッタ「あの声は、ナウラのケーキ屋だったんですね~」
lity「……。非戦闘員……」
ミリエッタ「あはは…でも、この人たちは色んなところに現れますから…」

こんな所にケーキ屋を出店し始めるナウラ三姉妹に、リティはただただ困惑するばかり。
一方、神出鬼没の彼女達を度々見てきたミリエッタ達は、すっかり慣れたものだ。

lity「……。欲しいの、ある?」
ミア「フルーツタルトを買ってみましたっ」
ミリエッタ「 全部っ!…と、言いたい所だけど、カロリーが心配なので、私もフルーツタルトだけで我慢します~」
lity「…ん。」

ついにはリティもこの異様な状況を受け入れ、ミア達の買い物が終わるのを待つのだった。

lity「…救助も終わったし」

暫しの休息を終え、リティが鋭い眼差しで彼方を見つめる。
ナウラ三姉妹を探す途中で、最深部へと至る道は確認済みだ。

lity「本命、行くよ」
ミリエッタ「はいっ」
ミア「はーい」

小部屋に設置されたテレポーターを起動し、3人は広大な空間へと足を踏み入れる。
超弩級戦艦型機甲種・ビッグヴァーダーが鎮座する、地下格納庫へと。


【リリーパ地下坑道・最深部――】

侵入者を感知し、轟音と共に起動する巨大な機甲種。
艦首の装甲が展開し、内に装備されたレーザー砲から眩い閃光が放たれる。
3人はその一撃を左右に跳躍して避けると、そのまま両脇へ回り込むように散開していった。

右舷側にミア、左舷側にリティとミリエッタ。
それぞれが、艦体の側面に装備された機銃と可動式連装砲を破壊していく。
左右の武装を無力化した3人は、そのまま甲板へと躍り出る。

艦上では、クレーンで吊るされた機械人形が襲い掛かってきた。
先陣を切るのは、中~近距離戦闘を得意とするリティ。
激しく振り回される両腕をひらりと掻い潜りながら、肘の関節部分を双機銃で狙い撃つ。

ミア達は、死闘を繰り広げるリティの援護へと回る。
人形の肩部と戦艦後部のミサイルポッドを法撃で叩き、頭上からの攻撃を封殺。
補助テクニックによる、フォトンの活性化も忘れない。


幾度かの攻防の後。
リティの銃弾を受け続けた機械人形の肘が、激しい火花を散らす。
小規模な爆発と共に、関節から千切れ飛ぶ巨大な腕。
舞い上がる炎と白煙に、一瞬視界が奪われ――
煙が晴れた時には、人形の脇腹から伸びる機関砲の一基が、リティへと狙いを定めていた。

lity「…ッ…!?」

息を呑むリティ。

ミア「フォトン解放…!イル・メギド!!」

ミアの声と共に、闇のフォトンで形成された腕が放たれる。
腕は螺旋の軌跡を描いて機銃に掴み掛かると、その銃身をグニャリと握り潰した。
歪んだ砲の中で響く、重く鈍い破裂音。
行き場を奪われた弾丸が筒内爆発を起こし、その衝撃が、機械人形の前面を覆うハッチを吹き飛ばす。

lity「……!!」

力強く甲板を蹴り、リティが跳躍する。
くるりと宙を舞い、開け放たれたハッチの奥、腹部主砲の上へと着地。
眼前で蒼い輝きを放つコアへと、両手の銃を突き付けて。
その弾倉が空になるまで、鉛の雨を浴びせ掛けた。


【アークスシップ3番艦周辺宙域、キャンプシップ内――】

ミリエッタ「お疲れ様でしたっ」
ミア「うまくいきましたねっ」
lity「上手く行き過ぎてると思うくらいには上手く行った…」

キャンプシップの中で、互いの労をねぎらい合う3人。

ミリエッタ「やっぱり、3人居ると楽ちんですね~」
lity「本当に楽」
ミア「戦力3倍です~」
lity「うん」

無事に特務先遣調査を終えたリティ達は、心地良い達成感と共に、帰路に就いていた。

lity「…まずは感謝を」
ミリエッタ「いえいえっ。お力になれたのなら何よりですっ…」

改まって礼を告げるリティに、照れながら応えるミリエッタ。

lity「正直。一人じゃ、ダメだったと思う」

ビッグヴァーダーとの戦いの最中、窮地をミアに救われた事を思い返しながら、リティが言う。

ミリエッタ「アークスのお仕事って、大変なコトもいっぱいありますから…私だって、一人じゃ厳しい任務も沢山です。
      だからこそ、皆で一緒に…ですねっ」
ミア「協力すれば、苦労は半額セールですっ」
lity「………」

ミア達の言葉にどう反応して良いのか分からず、リティは困惑した表情を浮かべていた。
しかし、アークスシップ3番艦、ソーンへの帰着まで間もなくという時。

lity「…一つ、相談」

暫く押し黙っていたリティが、不意に口を開く。

ミリエッタ「はい、なんでしょう~?」
lity「チーム、入りたいんだけど、問題なさそう?」
ミリエッタ「……!」

予想だにしていなかった言葉に、驚くミリエッタ達だったが。

ミリエッタ「はいっ、グリムさんのお知り合いの方ですし、大丈夫だと思いますよー」
ミア「わたしは歓迎なのですっ」

すぐにパッと咲いたような笑顔になると、その申し出を受け入れる。

ミリエッタ「チームの皆には、私達の方からお話しておきますねっ」
lity「良かった、感謝してる」

ミリエッタがチーム回線で連絡を取り、了解を得る。
そしてすぐさま、リティのチーム加入の手続きに取り掛かるのだった。


…何故、彼女達は出会ったばかりの自分に、こうも尽くしてくれるのだろう。
グリムの頼みだから?
2人が、グリムの仲間だから…?

lity「…仲間…」

――私にはまだ、よく分からないけれど。

グリムやミア達と同じ、この場所に身を置けば、いつか理解できる日が来るのだろうか。

ミリエッタ「さぁ、リティさん。こちらの周波数が、隊の通信回線になります~」
ミア「C隊へようこそです~!」

通信機の周波数を教わった数値に合わせると、新たな仲間を歓迎する隊員達の声が、次々と聞こえてきた。
すぅ、と小さく息を吸い込むリティ。
スタートラインに立ったばかりの少女の声が、チーム回線に響く。

lity「リティ、リティ・ロウ。よろしく。」


【中の人より】


  • 最終更新:2015-09-14 01:17:25