クリスマスの前の前の日

「ちーちゃん、ごはんできたよー」


ごはんの用意ができ、部屋にこもっているちーちゃんを呼ぶ。
帰ってきてすぐから引きこもって、音沙汰がない。
いったい何をやっているのやら。


「ちーちゃん?」


いつもは声をかければ何かしらの返事があるのに、今日はまったくの無反応。
寝ちゃってるのかな?

ドアをノックしてみても、反応なし。
寝てるならブランケットくらいかけておいてあげないと、風邪を引いちゃうかも。
そう思ってちーちゃんの個室に入る。



ちーちゃんは起きていた。
椅子に座って、何やら雑誌を読んでるみたい。

それも、ものすごく熱心に。



「そんなに熱心に、何読んでるの?」
「おわあっ!?」



文字通り飛び上がったちーちゃんが、慌てて雑誌を自分のうしろに隠す。



「い、イオリか、入るときはノックくらいしてくれ」
「したよー、ちーちゃんが反応ないから寝てるのかと思ったんじゃないー」
「そ、そうか、それは悪かった」
「で、何読んでたの?」
「い、いや、何でも……」



あからさまに目が泳いでる。
……うーん、すっごく気になる。



「あ、かすみさんー」
「んなっ!?」



こんな古典的な手に引っかかるとは思わなかったけど、この隙にひょいと雑誌を取り上げる。



「うわっ、ちょっ……!!」
「なになに? ……『初めてのデート指南書』『目指せデートマスター』『彼女に「素晴らしくデートがうまいな、君は」と言わせる方法』……」
「…………」
「あ、明日クリスマスイヴだもんねー、かすみさんとデートかー」
「……まあ、そうだよ」
「ふふ、かすみさんを楽しませようと必死なんだね、かわいいー」
「やめてくれ……」



観念したらしいちーちゃんを尻目に、ぱらぱらとページをめくってみる。
いくつか、付箋が貼ってあるページがあったり、ページの途中にちーちゃんの筆跡のメモが挟まってたりする。


「『女の子は買い物が大好きだ。ウィンドウショッピングに誘って、センスのいいプレゼントをしてみよう』……『ムードのあるバーに連れて行けば、彼女もロマンチックな気分に』……」


挟まってるメモには、書いたり消したりの跡がいっぱい残って、分刻みで事細かなスケジュールが組まれている。
なんか、マニュアル通りのデートをしようとしてるのかな……?


「これ、実践するつもりなのー?」
「ま、まあ……デートの経験なんてないんだから、少しくらい参考にしたっていいだろ」
「うーん……」
「……ん? どうかしたか?」



確かに、書かれてることは間違ってはいないような気もするけど……かすみさんとちーちゃんとのデートでは、それはどうだろう。



「かすみさんは、プレゼントがほしいのかなー? それとも、ちーちゃんと一緒にお酒飲みたいかなー?」
「……いや、わからないが」
「かすみさん、ちーちゃんにどんなことをしてほしいって思ってるかな?」
「どんなことを……?」
「私は、ちーちゃんがかすみさんとどういう関係を築いてるのか知らないから、なんとも言えないけど……なんかこれじゃあまるで『無難にこなす』デートみたい、って思ってー」
「…………」
「二人っきりでゆっくりお話するだけでも、私はいいと思うけどなー」
「ゆっくり話をするだけ、か」



じっと考え始めるちーちゃんに、雑誌を押し付けるように返す。



「ほら、そんなことよりごはんにしようー。お腹すいちゃったー」
「……ああ、そうだな」



それから、ちーちゃんはしばらく考えこんでたみたいだったけど。
翌日には、迷いのない顔で出かけていったから、たぶん大丈夫かな。



ちなみに、デートから帰ってきたちーちゃんはやたらと上機嫌で浮かれてて、大丈夫じゃなさそうに見えましたけどね。

  • 最終更新:2015-09-13 20:43:24