イオリst2「アークスであるということ」

アークスの、相互評価システムの課題。
ビッグヴァーダーを3体、クォーツドラゴンを3体、ファングバンサーを1体。

その課題をこなしに行くというロウフルさんとお手伝いしてくれるレアさん、アンちゃんに便乗して、私もブレイバーの課題を済ませてしまうことにした。

手始めに、ヴァーダーを撃破しにリリーパ地下坑道の探索をしていたときのこと。
1体目の解体を軽く済ませ、「課題になってた武器に持ち替えるのを忘れた」というロウフルさんを笑ったり、「一度部屋に戻る」というレアさんが抜けたりしたあとの、3人PTでの探索。

ロウフル「追加の任務が来たぜ 
内容は【リリーパ族を防衛せよ!】だ!
みんな、一気に行くぜ!」

そんな追加任務がきても、アンちゃんは慌てず騒がず、リリーパ族を捕まえているギルナスアームのそばに何やら怪しいものを置く。

ロウフル「ん?なにしてんだ?」
アングイス「よし。これで解決ですね。ふふふ」

そして吹っ飛ぶギルナスアームとリリーパ族。

ロウフル「・・・・・」
イオリ「あらあらー」
ロウフル「・・・・リリーパは大切にな」
アングイス「さ、採掘場での怨みですぅ…ふふふ」
ロウフル「お、おう・・・」

採掘場でなにかあったのかな、なんて、このときはまだのんきなものだった。



そして最深部。
大きく開けた空間に鎮座する、巨大な機甲種。

もはや数十ではきかない数をこの手で解体してきた、ビッグヴァーダー。

気が抜けていた、といわれればそうなのかもしれない。
慢心していた、といわれればその通りだったろう。

艦首主砲のレーザーがかすり、艦体側部のバルカンに右肩を食いちぎられ。



あれ、こんなに面倒な相手だったかな?



甲板で戦闘しながら、そんなことを考えたのがいけなかったのかもしれない。
目測を誤り、ヴァーダードロイドの主砲から発射されたレーザーが右肩をかすめた。

「っ!?」

焼きつくような痛みが、右肩から全身へと広がる。
いや、突き刺すような熱さだったろうか。

痛いんだ、いや熱いんだ……まぶしいほどに白く染まる視界の中、そんなどうでもいいことを思う。



ロウフル「おい、お嬢大丈夫か?」



眠りから醒めたときのように、急激に意識が戻ってくる。
さっきの痛みや熱さが、まるで夢だったかのように引いていく。
ロウフルさんがムーンアトマイザーを使ってくれたようだ。

イオリ「ごめんなさい、大丈夫ですー」

そう言って戦線に復帰しようとした瞬間。



イオリ「・・・痛っ」



右肩に、針を突き刺すような鋭い痛みが走った。
抜刀しようとしたカタナを思わず取り落としそうになって、慌てて鞘に押し込む。

ロウフル「おいおい大丈夫じゃねぇだろそれ」

もっともな意見だった。
でも、未破壊で残っている兵装は、ヴァーダードロイドの主砲だけ。

あと少し、あと少しだ。

悲鳴をあげる身体にむち打って、ビッグヴァーダーを撃破する。



アングイス「あ、い、イオリさん、大丈夫ですか……?」
ロウフル「ふぅ・・・なんとかなったな お嬢痛みは?」

ほっとしたせいかズキズキと痛みが増してきたところに、二人からの心配の声。
そんなに大した怪我じゃないだろうし、あんまり心配はかけたくない。

イオリ「あ、いえいえ、大丈夫ですよー」

心配させないように、せいいっぱいの笑顔を浮かべて。
逆にそれが心配させることになってしまったようだ。

アングイス「え、えっと応急の痛みどめならありますので…」
イオリ「うーんと、じゃあいただいておこうかなー、ありがとうございますー」
ロウフル「・・・アン、診断できるか?」
アングイス「は、はいぃ…応急程度ですけれども…」
ロウフル「あぁ、とりあえずお願いするぜ」



大失態だ。
一時期は毎日ひとりで10体以上も解体してきたビッグヴァーダーに、こんなにあっさりとやられてしまうなんて。

二人にこの怪我を知られたくないのは、心配をかけたくないからなのか、恥だと思ってるからなのか。
自分にも、よくわからない。



アングイス「と、とりあえず、ろ、ロキソニンですね…普通でも良く貰うあの薬ですぅ… と、診断…」
イオリ「だ、大丈夫ですからー さあ、次いきましょうー」



見たところ、外傷はムーンアトマイザーとメイトのおかげかすっかり消えている。
症状といえばこの刺すような痛みだけなのだが、これは知られたくない。

ロウフル「いや、念のために診てもらいな ちょうど看護婦さんもいるわけだし」

その言葉に、アンちゃんが私の全身を真剣な表情で見回す。

アングイス「外傷はない…、というよりも…メイトなどで治療されてますけど…」
ロウフル「・・・そうか、とりあえずは問題はなさそうってことでOKか?」

少し訝しげだったが、ここは納得しておいてもらうことにした。

イオリ「うぅーん・・・と、とりあえずは大丈夫ですからー」
アングイス「そ、そうですか…? と、とりあえず痛み止めだけは飲んでおいてくださいね…? そ、それだけでも違いますから…」
ロウフル「そうだな、とりあえずはソレ飲んでもらったほうがいいな」
イオリ「はーい」



隠し通せて少しほっとした。
と同時に、どうしてこんなに必死に隠そうとしてるんだろう、なんて自嘲的に思ってしまう。



アングイス「あのぅ…任務が終ったら、是非、メディカルか…クロト先生に診てもらった方が良いと思いますぅ…」
ロウフル「俺が言えた義理じゃねぇが・・・無茶だけは絶対にするなよ、つらくなったりしたらすぐに言ってくれ」
イオリ「ええ、大丈夫ですよー」



受け取った痛み止めを水筒の水で飲む。
こんなに心配させて、なんだか申し訳ない気持ちになってしまう。



アングイス「まだ十分に触診もできてませんので…ふにゅう…」

二人の心配そうな目が、じっと私を射抜く。
笑顔で隠そうとしてもじりじりと見透かされていくような気がして、ちょっとだけ降参することにした。



イオリ「大丈夫、無理そうだと思ったら任務の途中でも抜けますからー」
ロウフル「・・・なにかあったら即診療所に連れてく、それでいいな?」
イオリ「はーい」
アングイス「あ、あのぅ…もしもの時のために、レンジャーに変えるついでに医療用具ももって来ますね…」

そんな感じで、私たちは一度アークスシップに戻ることにした。




その後、課題のファングバンサー撃破のために走破演習:ナベリウスⅡへ、クォーツドラゴン撃破のために突破演習:龍祭壇へ。
部屋から戻ったレアさんも合流して、4人でいくことになった。

Estrella「あ…って、走破なんだね…。祭壇行ったこと無いんだ」
アングイス「さ、祭壇は簡単ですよぉ…」
ロウフル「祭壇の走破は敵倒して進むだけだから楽チンだぜ?」
Estrella「そっか…分かった」

そんな話をしながら、出発準備をしていたキャンプシップ内。
ロウフルさんとアンちゃんが、なにやら耳打ちで内緒話。



ロウフル「アン、お嬢になにか違和感あったらすぐに知らせてくれ」
アングイス「は、はい…分かってます…、私もそのつもりでしたから…」
ロウフル「ありがとな」



なにを話してるのかは聞こえないけど、内容はわかる。
さっきの私の怪我を心配してくれてるのだ。

ズキンズキンと、さっきより痛みが増してきてるように感じる。
ナベリウスが終わったら、やっぱり抜けてメディカルセンターにいったほうがいいかもしれない。

だからせめて、この走破の間だけは元気なところを見せておかないと。
私のことは心配いりませんよ、と。

イオリ「内緒話ですかー?」
アングイス「ひぃぃぃぃ…」
ロウフル「あぁーいやー、あれだぜあれ」
イオリ「アンちゃんはあとでぎゅーの刑ですー」
アングイス「ろ、ロウフルさんが、巨乳以外興味がないというはなしですぅうううう!」
イオリ「うわあ・・・」
アングイス「うぇっぇぇぇぇん、言ったから、言ったからゆるしてくださぁぁぁぁい!」
ロウフル「そ、そうそう、セイアがアンのほうが大きいって言うから真相をな・・・ってそこまでいってねぇ!俺は大きさより形も重視する派だからな!」
アングイス「ら、らしいですよ…ふゆう…」
Estrella「…」
アングイス「女性陣との距離が遠くなりましたね…」
ロウフル「で、レアはなんで無言に・・・」
アングイス「あわわ…」
イオリ「巨乳好きはほっといていきましょうかー」
ロウフル「・・・ま、まってくれー」



そんな感じで演習を開始。
最初の小型エネミーは問題なく撃破できた。

ロウフル「さて、お好きなところをどうぞ~っと」
イオリ「うーん、私はどこでもいいかなー」

4種類のボスエネミーとの一対一。
そうは言ったものの、タフなデマルモスや、弱点をさらす時間に限りがあるグワナーダだと少しきついかもしれないな、と思っていた。



アングイス「じゃ、じゃあグワナーダいきますね…」
Estrella「…」



アンちゃんが南へ、レアさんは無言のまま北へ。
それを見て、東へ進み始めるロウフルさん。
残った私は、西のロックベアへ。

譲ってくれたのだろうな、と思う。

怪我のことを知ってる二人はもちろん、レアさんにも私が調子悪いのが伝わってしまったのかもしれない。
ありがとう、という言葉は、胸の中でだけつぶやいて。



ロックベアはこんなに強かったのか、と驚いてしまう。



動きが特別素早いわけじゃない。
完全に捉えられる、いつもの動きだ。
攻撃をかわすのはたやすいのに、それなのに。



こちらから攻撃できないのだ。



右肩が、ずきずきと痛む。
視界の端がチカチカする。
ロックベアの腕をかわして、痛い、ボディプレスを引きつけて、痛い痛い痛い、掴みかかろうとして転んだところを痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!



結局、ロックベアを撃破して凍土エリアに進んだときには、3人がすでに小型エネミーを一掃したあとだった。
そして、ファングバンサーとファングバンシーの組み分け。



イオリ「課題あるので、バンサーいってもいいですかー?」
アングイス「も、勿論ですぅ… ウィークバレットは別れた方がいいですね…、私、お嫁さんいきますね…」
ロウフル「おう、レアのことたのんだぜ~」
Estrella「がんばります…」



なぜか敬語のレアさんと、アンちゃんが東、ファングバンシーへ。
ロウフルさんと私が西、ファングバンサーへ。



最近練習してる通りにやるだけ。
ウィークバレットを貼って、至近距離からホーミングエミッションを叩き込む、たったそれだけ。
それだけ、なのに。

できないのだ。

右肩の痛みに、狙いが定まらない。
2発しかないウィークバレットは狙ったところにはつかず、ホーミングエミッションは撃つ前に敵の攻撃がきて。

撃破の課題になっていたカタナに持ち替えてみれば、さらにひどい。
あまりの痛みに、狙いもなにもあったものじゃない。
振るだけでせいいっぱいだ。
もはや、ファングバンサーの動きも見えていなかった。



ひっかかれたのは、前からでも横からでもなく、背後からだった。



ロウフル「おい、無事か!」

今日2回目のこの感覚。
急速に意識がはっきりとしてくる。

イオリ「ありがとうございます、なんとかー」

その後、先のエリアにいたはずのアンちゃんが手伝いにきてくれて、なんとか撃破した。



ロウフル「助かったぜアン!助太刀ありがとな」
イオリ「ありがとうございます、助かりましたー」
アングイス「あ、はいぃ…こちらも手が空いたので…」
ロウフル「待たせてすまねぇなレア」

結局、彼女たちがファングバンシーを撃破して先のエリアの小型ダーカーを殲滅し終えても、私たちはまだファングバンサーを撃破しきれなかったのだ。
完全に足を引っ張っている。



そして、走破演習のラスト、ダークラグネを撃破したあと。

ロウフル「で、お嬢は大丈夫なのか? どうみても動きが鈍ってたが・・・」
アングイス「あ、そうでした…、私見れませんでしたけど…」
イオリ「えぇっと、まあそのー・・・」

さすがに今回のありさまはひどかった。
元気なところを見せて安心させるもなにも、これでは隠しようがない。

ロウフル「・・・ここまできたら隠すのはナシだぜイオリ」
イオリ「・・・カタナを振るのは、ちょっとだけきついかなー、なんてー」
ロウフル「おいおいそれって結構まずいだろ」
アングイス「と、ということは…腕…なのかな…?」
ロウフル「アン、イオリのこと頼めるか?」
イオリ「バレットボウやライフルくらいなら大丈夫なのですけどー」
ロウフル「それは大丈夫とは言えんだろ」

この期に及んで、私はまだうそをつく。
本当は、弓を引くのも、ライフルを構えるのだってつらい。
もう自分でもわけがわからなくなっている。

イオリ「・・・そうですね、あんまり無理すると迷惑かけちゃうかもしれませんし、今日はおとなしくしてることにしますー」
アングイス「あのぅ…それが…腕の神経痛で収まるなら、大丈夫なんですけど…最悪の場合、脊椎にダメージがいってるかもしれないので…今の応急治療用具だと、まかないきれないかもしれないですぅ…」
ロウフル「そうか・・・これは本格的にみてもらわないとダメかもしれん、か」
イオリ「あ、いえいえ、肩なので脊椎までってことではないかとー」
アングイス「あのぅ…腕や肩の痛みは脊椎から来ることもありますから…、診療所に行くことをお勧めしますぅ… ひぃぃ、ごめんなさい…」
Estrella「わかんないけど…無理は…良くない…」
イオリ「おとなしくお医者さんに罹ることにしますー」

もう無意味だ。
私はついに隠すことを放棄した。



イオリ「最後まで付き合えなくてごめんなさいー」
ロウフル「・・・いや、こっちも無理させて悪かった」
アングイス「じ、自身で動けるのなら…、そ、それだけでも幸いですぅ…」
Estrella「気をつけてね…」

3人に別れを告げ、私はひとりアークスシップに戻った。









イオリ「え? 手術?」

メディカルセンターでの診断。
この右肩の痛みは、内部に弾の破片が残ったまま傷がふさがってしまったせいなのだとわかった。

医師「ええ、切開して直接取り除くのが一番ですね」
イオリ「切開、ですかー……」

脳裏によぎるのは、父の腹部にあった手術痕。
切開するということは、手術痕も残ってしまうんじゃ……?



医師「小さなものならほぼ目立たないようにはできますが、これだけの大きさとなると不可能ですね」



戦闘が主になるアークスなのだから、すでに想定していたはずのことだった。
アークスになると決めたときから、覚悟していたはずのことだった。

それなのに。

いざこうして自分に降りかかってみると、なにも考えられない、いや、考えたくなかった。
どうやら私はショックを受けているらしい。



そのあとなにを答えたのかは、よく覚えていない。
霧がかかったような頭で、医師の言うままに手術室へ連れて行かれ、麻酔をかけられ、切開され、弾の破片を摘出された。



頭がふたたび回り始めたのは、すべてが終わったあと。
メディカルセンター前のベンチに腰を下ろしていたときだった。

なんだか、現実感がない。
本当は全部夢の中のできごとで、私はたった今目が覚めたばかりなんじゃないか、なんて思い始める。



ビッグヴァーダーとの戦闘なんて本当は行ってなくて、だからこの傷も夢の中のできごと。



しかし、麻酔が切れ、ジンジンとした疼痛がくると、そんな考えも否定される。
右肩には、手のひらほどもある大きなばんそうこう。
こんなに大きなものでないと、覆いきれないほどの手術痕。



急に泣きたくなった。
美容に全力を傾けてきたというわけではないけど、それなりにきれいになりたいとは思っていたし、おしゃれにも興味があった。

だけど、こんなに大きな傷を作ってしまった。

見せる相手なんていないじゃない、なんて自嘲的な考えが浮かんで、思わず笑ってしまう。



ぜったいに、落ち込んでいるところなんて見せられない。

ついこの間アークスになったばかりだと思っていたのに、いつの間にかずいぶんと後輩が増えてしまったから。
私は、みんなを支える立場になってきてるのだから。

私が弱っていたら、みんなを不安にさせてしまう。



誰にも見られていない今、少しだけ落ち込んだら、またいつものように笑顔を取り戻そう。



「緊急警報発令。アークス船団周辺宙域に、ダークファルスの反応が接近しつつあります」

アドニス「襲撃だー!」
ロウフル「だなー」
メロ「ふゥん?またアイツかァ・・・」
アーデルハイド「懲りないねぇ。だからこそだけど。」
アドニス「しかし、DFの襲撃のたびにクーナのライブを思い出すなー」
かすみ「あら、そういえば最近見ないわね・・・忙しいのかしら?」

イオリ「オルトくんは残念がってるでしょうねー」

チーム回線から、にぎやかな声が聞こえてくる。
それに返事をして、少し安心する。
大丈夫、もう大丈夫だ。
もう、いつもの私に戻ってるはずだ。

無線でのお話を聞いてると、数人がどこかで会ってるみたい。
私も直接会ってお話したいかな、なんて思って歩き出したのだけど。



遠くにチームメイトたちの姿を見つけて、思わず足が止まった。



いや、大丈夫、もういつもの私に戻ってるんだから。
昔から、こういう隠し事は得意なんだから。

かすみ「今日は・・・集会のつもりが突然のDF襲撃に邪魔されて、このDF倒したら・・・私、仮装パーティに行くんだ、って人多いかも?」
Shu「なんだよその死亡フラグ」

どうやらダークファルスの迎撃任務に出る人が多いみたい。
当然か、アークスとして最重要任務なんだから。

イオリ「ふう、手術は終わったけど、お医者さんに止められちゃったから、私はお留守番ですー」

傷がふさがるまで、任務には出るなと言われた。
それもまあもっともなことで、今の私で迎撃の役に立つとは思えないこともあって参加しないことにした。

ロウフル「おいおい手術って、そんな大怪我だったのかよ」
メロ「手術ゥ?」
かすみ「え。。。手術?」
アドニス「病みあがりかい? お大事にねー」
イオリ「いえ、怪我は大したことなかったんですけどー」
かすみ「え、ケガしてるの?大丈夫?」
ゼルダ「あら?大丈夫なの?動いて」
イオリ「その・・・弾の破片が残っちゃってたらしくてー」
ロウフル「それって、全部取れたんだよな?」
イオリ「ええ、取れましたよー。だから少し休めば元気になりますー」
ロウフル「そうか・・・」
もっふもふ「イオリくれぐれも安静にしていてください」

いつも通りの応対ができている。
大丈夫だよ、と伝えて、この話題はおしまいにしよう。

そう思っていたのに。



かすみ「あ・・・そっか。良かったわ・・・身体のどの辺り?」
ゼルダ「んもぅ…女の子なんだからお肌に傷のこったら一大事よぉ?」
かすみ「そうそう、私もそれを気にしてるの」



ズキン、と痛んだのは、右肩の傷だったのか、心だったのか。

ついてくるところが鋭い、さすがは女子力の高い二人だ、なんて妙に感心したりする。
やっぱり、けっこうショックだったみたいだ。
心の準備ができていても、一度経験したことであっても、こんなにも簡単に私の思考を奪い去ってしまう。

イオリ「あ、だ、大丈夫ですよー」
ロウフル「・・・なぁ、一体どこだったんだ?」
イオリ「右肩ですけどー」
かすみ「多分今のメディカルの技術ならキレイに消してくれそうだけど・・・」



小さなものならほぼ目立たないようにはできますが、これだけの大きさとなると不可能ですね。
医師のセリフがフラッシュバックする。

ロウフル「肩か・・・たしかにソレは安静にしとかないと、だよな」
Estrella「無理は良くない…怪我とかよくあることかもしれないけど…」
もっふもふ「片手でならタリスやウォンドなどなら扱えますね」
かすみ「あはは・・・片手ならって問題でも・・・ない、かなー・・・?」



かすみ「・・・?イオリちゃ・・ん?」
イオリ「え? あ、はい、なんでしょうー?」
ロウフル「どうした、言いにくいことがあるのか?」
かすみ「・・・なんだか今黙ってた様子だった・・・気のせいかしら?」
イオリ「いえいえ、そんなことないですよー」

この沈んだ気分を見せてはいけない。
だから、できる限り明るい声で答えた。

かすみさんにバレそうになってる。
これじゃいけない。

かすみ「そ、そう?ならいいけど・・・えっと、大丈夫よイオリちゃん若いからっ! 私がケガしちゃうと危ないかもだけどね、あはは・・・はぁ。」

いや、もう完全にバレてるみたい。
いつもみたいに、ちょっと自虐的な冗談でなごませてくれる。

ロウフル「まぁ、無理に聞いてもアレだし、これ以上は聞かないが・・・相談があるなら遠慮なく言ってくれ、こっちの相談窓口はいつも開いてるからな」
井蛙「ふう、お化粧直しておりましたわ。あら、イオリさん。なるほど弾が肩に入っていたのですね」
イオリ「ええ、ありがとうございますー でもそんなに心配するほどの怪我じゃないですよー」
井蛙「なるほど、けれども大事に至らず良き哉ですわ」
イオリ「ええ、大したことなくてよかったですー」



そう、大したことなかったのだ。
命に別状はなく、後遺症もない。

あるのは、大きな手術痕だけ。



ロウフル「まぁ、一応弾は全部摘出できたみたいだし大丈夫・・・なのかねぇ お嬢はあんまり浮かない顔してるが・・・」
イオリ「え? そ、そんな顔してましたかー?」
ロウフル「そんな気がしただけだぜ~」

ロウフルさんにもバレかけてるのかもしれない。
たいていのところではにぶいくせに、変なところだけ鋭いこともある子だから。

イオリ「ほ、ほら、そんなことより迎撃出なくていいのですかー?」
ロウフル「DFならほかのみんながなんとかするっしょ、それよりもそんな顔した仲間のほうが俺はほっとけないね」
もっふもふ「ロウフルがイケメンです。偽者でしょうか」
ロウフル「俺正真正銘のほんものだからな!」
もっふもふ「そうですか失礼しました」
イオリ「大丈夫、大したことありませんからー」
ロウフル「・・・隠し事はなし、だからな?」



言えることだったら、確かに言いたいけど。
でも、言ってしまったらどうなる?

他人に、余計な荷物を背負わせてしまうだけなんじゃ……



アーデルハイド「まぁ、いろいろあるさね。」
イオリ「ひゃっ!?」



うしろからぬっと現れたアーデルさんに驚いてしまう。

ロウフル「おぉっとコンバンワだアデル」
井蛙「あら、ごきげんよう」
イオリ「び、びっくりしましたー」
ゼルダ「あら アーデルちゃんお疲れぇ」
ロウフル「そりゃ後ろから来られたらな~」

井蛙「ふふっ、イオリさん。老害の発言と思って聞き流してくれれば良いけれども…」
イオリ「ろ、老害ってー」
井蛙「わたくしや、アンとて、戦いの中で学ぶことは今になってもありますわ。そのおかげで、それなりの実力を得る事ができましたの」

戦いの中で学ぶこと。
今回の私のことも、そういうことだろうか。

井蛙「ふふ、それだけですわ。」
ロウフル「ふむ・・・セイアでもまだまだ学ぶことはたくさんあるんだな」
井蛙「ふふ、人生そのものが学問ですもの」
ロウフル「なかなか哲学的だなそりゃ」



私は、戦いが……アークスっていう仕事が、こういうことなんだってしらなかっただけ、なのだろうか。

アーデルハイド「まぁ、こういう仕事をしていけば、傷も増えていくからねぇ。」
イオリ「・・・そう、ですよね、やっぱり」
アーデルハイド「そのうち、本当に腕の一本くらい、もってかれるかもしれない。」

確かにその通りで、それはぞっとする話でもあった。

ロウフル「そういうことも、ないわけじゃないもんな」
アドニス「なーに、傷跡も愛しくなるさー」
アーデルハイド「かくいう私も、昔はロックベアに腕を持っていかれた経験があるくらい。」
ロウフル「へ?もぎ取られたり・・・したのか?」
イオリ「腕を・・・」
井蛙「ええ、厳しい世界ですもの。だからこそ、己を常に磨かねばならないのですわ」
もっふもふ「キャストならパーツを買い換えるだけでなんとかなりますがヒューマンなどは捥がれてしまっては修復は困難でしょう」
アドニス「受けた傷は守ったものの証さ!」
ロウフル「それはある意味勲章だなおにぃさん」
イオリ「守ったものの証・・・」
アイシャ「わっちはその「証」じゃ わっちはアークスに救われてここに居るからの」
かすみ「あら?アイシャさん・・・そうだったのね んー・・・証、なるほどね・・・どう思うかってことかしらね?」

この傷で、私が守れたものはあっただろうか。
今後、傷を負ってでも守れるものがあるだろうか。

井蛙「もしくは成長の証かもしれないですわね どの分野であれ「傷」は慢心する「心」への最高の刺激ですわ」
ロウフル「傷跡を見て思い出せるってとこか」
イオリ「慢心・・・そっか、そうですねー」



慢心、していた。
戦い慣れた相手だから、と、気が抜けていたかもしれない。



アーデルハイド「勲章ととるか、あるいは戒めととるか、あるいは復讐の証ととるか。それは、各々しだいだね。」
井蛙「ええ、わたくしも何度も天狗の鼻を折られましたわ」
ロウフル「なるほどねぇ~」
アドニス「肩の傷も、それが少しずれていたら頭だからねー」
井蛙「今でさえも自身におごり高ぶりがあるのだもの。またいずれ叩き落される日がくるのでしょう うふふ」
ロウフル「・・・俺も、もう少し気合入れんとな」

あの破片が、肩ではなく頭に刺さっていたら。
死んでいたか、よくても重大な障害が残ったに違いない。



死んでもおかしくない重大なミスを犯した。
この傷は、そういうことなのかもしれない。



イオリ「・・・ん、ありがとうございます、みなさん 少しもやもやが晴れましたー」
ロウフル「そうかそうか、そりゃよかったぜ」
ゼルダ「ウフフ♪マイペースなイオリちゃんじゃないとちょっと心配になっちゃうわぁ♪」
井蛙「ふふふ、霞や霧も美しいけれども…やはり晴れ晴れしい笑顔が素敵ですよ イオリさん」
ゼルダ「大丈夫♪もし傷だらけになってもその傷ごと愛してあげる♪」
アーデルハイド「キャーステキィー」
イオリ「ふふ、それはありがたいですねー」
ゼルダ「ウフフン♪」
ロウフル「さすがはおねぇだぜ~!」
井蛙「ええ、さすがゼルダさんですわね」
かすみ「いいわね・・・そういうこと言ってくれる男の人がいいわ・・・」
イオリ「でも、肩にこんなおっきな手術跡つけたような女じゃ、お嫁の貰い手がなくなっちゃうのがつらいところですー」
井蛙「手術跡ですか…ふうむ、何かアンならできるかもしれないけれども… 完全に消し去るのは至難の業かもしれない…ですわね」
ロウフル「あらら、結構でかいんだな・・・」
アイシャ「ぬしの器量であれば問題ありんせん」
Estrella「いざとなれば…目の前の誰かがもらってくれる…」
ロウフル「・・・・ちなみに、いつもの台詞は言わんからな、お嬢はそういうのあまりよろしくないみたいだし」
イオリ「目の前の誰かは、誰かさんのステディですしー」
アーデルハイド「案外別のだれかかもしれないねぇ。人の縁はわからないものさ、ほんとに。」
ロウフル「そんときにならんとわからんもんな~」



私は一体、なにを悩んでいたんだろう。

一言も相談したわけじゃない、隠そうとさえしてたはずなのに、こんなに親身にいろいろ言ってくれる人たちに囲まれて。
私はみんなを支えてなんていない、支えられてばっかりだ。

ちょっと情けない気持ちにはなるけど、それが不思議とうれしく思えてしまう。



イオリ「・・・うん、ありがとうございます、重い雰囲気にしちゃってごめんなさいー」



今度こそ、本当に大丈夫。
外側だけ、カバーをかけたようにいつもの私を装うんじゃない、心の底から、いつもの私だ。



ロウフル「さて、とりあえずはくらーい話題はここまでにしたいが・・・なんかネタはないか?」
井蛙「そうですわね… 『DFを虐める DFを苛める DFをいぢめる』 うふふ、どれが良いかしら?」
アーデルハイド「ジャージ王子様はどこまで進展しましたか。」
ロウフル「お、おれ王子様ってガラじゃないんだが・・・」



いつも通りの明るいみんな。
私もいつも通り、それに乗ってお話を楽しみましょう。



イオリ「じゃあロウフルさんをいじめる、でー」
井蛙「はぁい、畏まりましたわ」
ロウフル「で、なんで合体したんだよ! レアーたすけてくれー、俺いじめられちまうぜ~」
Estrella「いじめられて、爆発すれば…」
ロウフル「なんでさ!冷たいぞ! ・・・まさか、レアもいじめる側か!」



アークスであるということ。
それはきっと、こういうことも受け止めて、なお前に進む強さを持つことなんだと思うから。



【中の人より】


  • 最終更新:2015-09-15 00:57:28