これから

ふと上を見上げてみる。
開発を途中で諦められたこの土地は
行き場の無い人を差別する事無く
また平等に受け入れる。
それを象徴するかのようなくすんだ空が見えた。
普通の街なんかよりずっとみすぼらしくてどこか輝いて見える
そんなスラム三番街、そこが僕の故郷だ。
「ルディア!なぁにチンタラしてんだ!手伝え!」
アークス活動を少しの間だけ休もうと決めた僕はママの仕事を手伝うことにした。
ずっと傍にいたフラッシュ、それこそがママだったなんて。
分かっていたような分かってなかったような。
けど、どうでも良かった。
これから親子として居れるなら。
そう思ってママと患者さんの元に走る。
早くしないと多分ママが怒るから…


「はぁぁ…どんだけ患者いやがるんだ…休めやしねぇ」
一通り患者さんを診終わったママは机にだらけている。
「お疲れ様…ママ」
何も出来てない僕はそんな事しか言えない。
拗ねてる訳ではない。
決してここ数日というか帰ってきてからずっと患者さんばかりの応対で寂しい訳では無い。
別の意味で寂しいけど。
小隊の人達に会いたい。
少し長めに休みを取ってしまったから…
僕は捕まってたから知らないけど…
レディを撃退出来たのは皆のお陰、僕はこの恩を生涯忘れない。
絶対に。
「ルディア、こっち来い」
そんな考えに更けてるとママに呼ばれた。
なんだろ…悪い事してないけど…?
そう思ったら抱き締められた。
「ごめんな、ダメな親でよ。お前を突き放す事が正解だと思った、お前に呪いを掛けちまった、だからこそ…突き放す事がいいと思ったんだ…」
ママの顔は見えない。
だから表情は見えない。
けど分かる、今凄く辛そうな事が。
「けど、お前と離れるのが嫌で、偽名なんか使って傍にいて…馬鹿だよな、何も変わりゃしねぇのに…なのに…俺はお前が捕まった時…お前を助けられなかった…すまねぇ…」
泣かないでママ
泣かないでよママ
悪くないよ、全く悪くないから
だってママがそうしなかったらママの心はあのままだったでしょ?
それにああしなかったら僕は…
僕はアークスになろうなんて思わなかったよ?
あれがあったから僕は皆に出会えたんだよ…?
そう言ってあげたいのに
僕は言えない。
感情が溢れて涙が止まらなくて声が出なくて。
何年ぶり?
いつ以来かな?
ママの、腕の中
暖かい
優しい
そんな感じ
「ママ…大好き…」
びくりとママが震えた
けどすぐ抱き締める力が強くなった。
それだけで伝わったのかな。
それから僕らはただ泣きながらしばらくそのままだった。



「なぁルディア、本当にしちまうのか?」
「もう…決めた事…」
「けどよぉ…」
「うじうじしない…」
「少なくともお前には言われたくねぇ!」
「うっ…でも決めたからいいの!」
「…わぁったよ、好きにしな」
ママが渋々と折れてくれた。
それを確認した僕はインガを持った。
「馬鹿か!?ハサミならこっちにあるから!?」
そんなママをスルーして僕は自分の髪を掴んで切り裂いた。
ルディアとイオルディアとの決別。
いや、違うかもしれない。
今度こそ僕が僕として生きていくためのケジメ。
約束を守る為、未来を歩く為、そしていつかあの人を迎えに行く為。
それと勿論、師匠と渡り合う為。
いつかギャフンって言わせる為。
「バッキャロぉー!!」
「ぎゃん!?」
ママ、確かに僕馬鹿だけど、鞘で殴ったママも相当だからね?


「ほら、これで整ったぞ」
「…ありがと」
酷かったのかママが髪を整えてくれた。
「…決別、でいいのか」
「決別、というか…ケジメ、かな?」
「…」
「イオルディアも…僕だけど、これからはルディアとして生きていくから…」
「…そうか、お前も成長したな」
そう言うとママが頭を撫でてくれた。
昔の記憶と同じ撫で方。
それが嬉しくて笑顔になる。
ママも笑顔になった。
昔から望んだ、こんな時間。
ありがとう、イオルディア。
君がいたからこそ今の僕がいる。
だから休んでてください。
もう1人の、僕。


風が吹く
この空虚で賑やかな街に。
矛盾を抱えるこの街に。
まるで焔を猛らせるような風が。
「いってきまぁす…!」
「おぉ、行ってこい!」




あぁぁぁ…
こっちの方が捗ってしまった…
けど、どうしてもルディアとしての一日目を書きたかった…
それだけなんです…!

などと言い訳はいいとして…
これにて未来を歩き始めたルディアですが
まだ話は続きます。
ここまで来るにはやはり皆様の助力や繋がりがあったからと思わずにいれません。
心からの感謝とお詫びを。
これからもよろしくお願いします!
トラウム

  • 最終更新:2016-01-06 20:12:57

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