かすみst4-1「一族の掟」

定期検診が終わった日、私はチームルームへと向かう。

チームルームに着いてみると、そこには湯気が立ちこめていた。
どうやらチームルームとしていたシップは温泉地に着陸していたようだ。
肩の凝る定期検診が終わったので私は着替えて温泉に入ることにした。

そのうちに部隊のメンバーも来て一緒に温泉に入ることになった。

普段と何も変わらない、いつもの日常。


「なあ、かすみさん・・・左目、色が変わったか?」
唐突に切り出したのは、チアキ君だった。


最初はなんだか分からなかった私は、定期検診でのことを言った。
「んー・・・ちょっと定期検診で目のこと聞いてみたんだけど
 ・・・なんか、私・・・薬だかなんだかで目の色変わってたみたい?」


そう言われたのは本当だった。
定期検診で私が言われたことは、
 ・種族はデューマンだと識別されたが、どうやら薬物投与によって
  デューマンに身体組織を変えられている形跡がある?詳細は不明
 ・合わせて目の色も変化した形跡がある
 ・27歳前後、と言っていたが28歳?らしい

・・・最後のが一番ショックだったのは内緒。


だったけど・・・今何色かしら?
っぽい・・・?」
薄い紫・・・いや、桜色か?」

みんなが口々に言うには、どうやら私の左目は紫色に変化したようだった。

「でも、デューマンって、左右の目の色違ったりするんだよね・・・?途中で色変わったりするものなのぉ?」
テトちゃんが率直に思ったらしい疑問を口にする。

確かに途中で変わるケースなんてないのだと思う。
デューマンについて詳しいわけじゃないけれども。

とはいえ、紫色の目という単語に、私は不思議と違和感はなかった。

「んー・・・あ、でも。紫色はうちの一族全員そうだから、別になんてことはないかしらね。
 ・・・そうそう・・・何も・・・違わない、普通のこと」

無意識のうちに、そう口走っていた。

ハヅキさんだけは、私が記憶喪失なことを知らなかったから気付かなかったけれど、
「一族・・・?」
「誰の事言ってるのぉ?」
チアキ君、テトちゃんはそれを聞き逃さなかった。

「え?一族?誰の?」
私はあまり事態を飲み込めておらず、聞き返してしまう。

「「うちの一族」ってかすみさんが言ったぞ」
「え?今かすみさんが自分で・・・一族で紫色の目だから・・・って・・・」
チアキ君とテトちゃんに言われて私は気付く。

確かに言っていた、自分が。でも忘れていて、思い出せないはずなのに・・・。




「ねえ、テトみたいに」
テトちゃんが聞いてくる。

「血統のお家とか、あったんじゃないのかなあ・・・?」


不意に記憶が蘇る。誰かと、何か会話をしていた記憶。

「血統の家、っての?そういう奴の家生まれか?」
若い男性が、私に向かって話しかけている。

どこだか覚えていない、暗い部屋の一室。

「もう私は、関係ない・・・家のことなんてどうでもいい・・・」
私は彼に冷たく言い放つ。

「あぁ?けどよ、依林(イーリン)が言ってる分にはお前の家って・・」
男性はなおも私の話に食いついてきた。面倒くさい、そう思った。

「・・・掟破りで・・・あの家は出た・・・だから知らない・・・」

「ハッ、うるさいって言ってんの。だからアンタはガキなのよ、ヘルズクロウ」

一緒にいたもう一人の女性が続けて発言する。
私よりも幼い印象の女性だった。

「おい、依林。テメエには言ってねえんだよ。黙ってろ」

ヘルズクロウと呼ばれた先ほどの男性は黙らず言い返していた・・・。


「え?それはないんじゃないかしら?もう私、関係ないもの。おうちなんて・・・家のことなんてどうでもいいでしょ?」
「だって私・・・もう掟破ったから・・・あの家出たんだもの・・・」
気が付くと、私はその記憶の中で喋っていた言葉を、口に出していた。


「何も・・・家がどうだろうと、私のやることは変わらない・・・」


「ねえねえ!かすみさん、どーしちゃったのぉ??なんかおかしいよぉー!」
テトちゃんの叫びに近い声で、私はやっと引き戻される。

全然違うことを・・・蘇った記憶のことを考えていた。


突然、ハヅキさんが聞いてくる
「ねぇ、かすみ君。君は「掟」って単語を聞いて何を浮かべるのかい?」

掟・・・?掟って何よ・・・唐突に。
私はまた考える。
掟・・・ルール・・・それっぽい言葉で・・・でも私、あんまり掟とか考えてなかったし・・・。

「んー・・・「家族を殺してはいけない」・・・かしら?」

なぜこの言葉が出てきたのか分からない。
分からないけども、私は、この言葉を言った瞬間、深く、何かに突き刺されたような気がした。


また、先ほどの記憶が蘇る。先ほどの、あとの話。

「あは、知ってる。『一族の掟』って奴でしょ。からくり丸といい・・・今のメンバーは掟破りが好きよね。」
依林は体勢を変え、座り直す。

「ヘルズクロウは掟って聞いて何を浮かべる・・・?」

「あ?俺か・・・いつでも格好いい俺でいること、かな」

「ハッ、あんたらしいわ・・・脳味噌なさそうな答えで」
呆れたように言う、依林。

「若さ無くしたババアよりはマシじゃねえかな?」
負けずに言い返す、ヘルズクロウ。

「・・・おい。ぶっ殺すぞ」

「こっちの台詞だ、糞アマ・・・」

二人が一触即発の状態になっていても・・・私は気にしなかった。

全然、動じないで・・・。

「・・・別に」

「やることをやっただけ。いつもと同じ」



「かすみさん」
チアキくんが、気がつくと真横にいた。私の肩に手を載せて
「今なら、俺がいるぞ。辛いことを思い出しても、俺が支えてやれるぞ」
そう言ってくれていた。

なぜだか分からないけれど・・・すこし心が安らぐ。でも・・・次の一言。


「・・・殺したんじゃないのか?」
この言葉を聞いて、私はハッとしてしまった。

「かすみさん、過去から逃げるな」
チアキ君は続けて私に言う。

「過去は、その人そのもの・・・受け止めて、抱えて進むしかない。
 だけどな・・・一人で抱えなきゃいけないわけじゃない・

一呼吸おいて

「俺が一緒に抱えるから。だから、安心しろ」

彼は、私に・・・そういった。
どうやら彼は、何か私に対して何かが分かったようだった。


さらにハヅキさんが、続く。
どうやらテトさんに私の記憶喪失からの話を大体聞いたようだった。

「………かすみ君」
「君の話から断片的な部分を集めて一つの仮説ができたよ」

気が付くとチアキ君の手を掴んでいた私は、その話を聞くことにした。

「……かすみ君の一族について」
「先ほど君は「掟」と言う単語を聞いたら「家族を殺してはいけない」と答えたね」
「そしてさらに前に、君は「掟を破った」から家を出たと言っていた…」

そう、私が何かに突き刺されたような気がしたことだ。
私が考えたくなかった考えに・・・ハヅキさんは


「……君は、家族の誰かを殺めていた」

たどり着いていた。

「そして僕と似た質問を近い先で聞かれ、君は「いつもやっている事と」答えていた」
「……殺める事になんら疑問はなく、身内を殺めるななんて率直過ぎる掟もある」
「君は昔、暗殺集団…あるいはその類の中で生きていたんじゃないかな」


立て続けに言われた言葉に、私は倒れそうになってしまう。
チアキ君の表情は変わらなかったことから、おそらく彼も同じ結論に達していたのだろう。


・・・私が、人殺しの集団の中にいた?


「そ、そんな・・・!かすみさんが…人を…殺したなんて!!!テトは信じたくないもん!!!」
「し・・・信じないもん・・・っ・・・」
テトちゃんがそう叫ぶように言う。

・・・きっと、テトちゃんがいなかったら、同じことを私が叫んでいたかもしれない。

「そんなの・・・嘘だよぉ・・・テトの知ってるかすみさんは優しくて大人で・・・ひっく・・・えぐ・・・」
泣き出してしまっているテトちゃんに声をかける余裕が、今の私にはなかった。

「お、思い当たる節・・・だって、仲間・・・あ」

先日、データベースを探してしまった時のことを思い出す。

「だから『アークスのデータベースに名前がない・・・?』」

そして・・・

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  王牙
   惑星間手配中の暗殺者。通称「激震の王牙」。
   詳細な情報は不明。ある国家元首を親衛隊ごと葬ったとされている。
   年齢は30代後半とされている。現在は活動記録がなく、
   死亡したとの情報もあるが定かではない。

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これにも・・・説明がついてしまう。


そうなると・・・私は、記憶を失う前の私は何をしていたのだろう。



「そんなかすみさんはいないんだってばぁ!!!」
頭を抱えて涙をポロポロ流してテトちゃんが叫んでいる。

私は彼女を落ち着かせたくて、彼女に手を伸ばそうとした。


その瞬間、私は自分の手を見た。
こんな手でテトちゃんを触れられるの?

そう思い、手を下げてしまう。私には彼女に触れる資格はないんじゃないか?

今までの話が本当なら・・・私の手は血まみれなのだから


「過去のかすみさんだって、冷酷だったはずがない」
チアキ君がかばうように言い出す。
「全部忘れてるのが証拠だ。冷酷で、人を殺すことに何も思ってない人間が、それをすべて忘れたりするもんか」
さらに、
「記憶喪失っていうのは、人間の防衛機制なんだから。自分の心を守るために、そうしたんだから・・・違うか?」

そう言ってくれた。言ってくれたのは嬉しかった。けれど・・・

そう、なのだろうか・・・。
私は本当に忘れたくて・・・忘れた?

そういえば、あの夢の中でヒエロニムスという人物が言っていた言葉。

「大丈夫だよ、@#!。君が忘れてもー・・・・」
「・・・君のしたことは・・・いつまでも、消えないんだからね・・・」


・・・そうなの?私は自分のした嫌なことを忘れるために・・・記憶喪失になったの?
・・・それでいいの?私は・・・私がしたことを、私だけ忘れて・・・生きて良いの?

考えれば考えるほど、気持ちは沈んできた。




「・・・・・・ごめん、テトちょっと取り乱した・・・・」
テトちゃんが落ち着いてきたようだ。・・・私は何も出来なかった。


「なんで過去なんてあるのかしら・・・」
ポツリ、と素直な気持ちを言葉に表した。

「ねえ・・・辛い過去って思い出す必要・・・あるのかな・・・絶対必要なものなのかな?」
テトちゃんも何を思ったのか分からないけれど、私と同じ気持ちになっていたようだった。

「必要ないって言う人もいるだろうが、俺はそう思わない」
チアキ君が言う。

そしてハヅキさんも
「……人はね、過ちを犯す生き物なんだ」

落ち着いた口調で
「その過ちが記憶として纏わりついて、今でもなお苦しめる。
 でもね、だからこそ忘れちゃいけないんだ。同じ事が起きないよう、同じ過ちを繰り返さないよう・・・」

「過ちを犯す生き物と同時に、学ぶ生き物だから」

心にぐっさりと刺さった気がした。私は・・・一体何を学んで、今の私になったのだろう・・・。
記憶喪失になった私・・・記憶喪失になる直前に、何を思っていたんだろう。

「私はね! かすみさんに今まで通り・・・一緒に・・・ここで楽しく過ごせたら良いなって思ってるだけなの・・・・。
 ・・・・・かすみさん、遠くにいかないよね?」
テトちゃんが不安そうに言う。

「いかない」
チアキ君がそう言うと、
「かすみ君が特殊C支援小隊の皆とずっと一緒にいたいと願っている限り、きっとね」
ハヅキさんが合わせるように答える。

私がここに居たいのは、本当・・・でも。


・・・私に、ここにいる資格があるのかしら?


そんな私の思いに、チアキ君が答えるように、テトちゃんに向かって言う。

「……今のかすみ君を信じるのはいい。…でも、過去のかすみ君も、否定しないであげてくれ」
「……うん。この先かすみ君の過去がどんな人であろうと、嫌わないであげて」
ハヅキさんも言い、すこし顔を曇らせながら、テトちゃんは納得したようだった。

そうよね・・・私だって、私がテトちゃんならきっと・・・ちゃんと納得するのは難しいと思う。

立ちこめる湯気のように、私の過去も、気持ちも、見えなくなったままここの話は終わった。


「あと、かすみ君」

最後にハヅキさんの、この言葉を残して。

「……君を知ってる者が近くに潜んでる、かもしれない。…用心しておいで」
「……根拠の無い推測と、僕の勘。…記憶の隅にでも置いといてね」


中の人より ---------------------------------------------------

むむ・・・ちょくちょく修正してしまうかもしれません・・・
長くなりすぎましたー。

あと皆さん、勘が良すぎですよー(笑)

  • 最終更新:2015-11-01 10:44:44