いたずらマグっ子!マジック☆SHOW

「♪~」

とある休日の午後のこと。
ミアはショップエリア端の休憩スペースでソファーに腰掛け、モニターに流れる映像をのんびりと眺めていた。
そこへ。

「あっ、ミアさん!こんにちは~」
「こんにちは?」
「ミリィ!ユエ!やっほー!」

ミアの姿を見つけ、駆け寄ってくるミリエッタとユエ。
どうやら、2人でショップエリアを散策していたらしい。

「何を見てるんですか~?」
「ん、なんか手品やっててね。面白そうだなーって」
「てじな?」

ミアが見ていたのは、マジックショーの番組。
ミリエッタとユエもミアの隣に座り、モニターに注目する。
映像の中では、シルクハットにタキシード姿の手品師が、ステージの上で様々なパフォーマンスを披露していた。

「話題沸騰のマジシャン、Mr.エース!さぁ、次は何を見せてくれるのかー!?」

番組の司会者が声高に叫ぶと、手品師・Mr.エースは、懐から細剣のようなナイフを取り出した。
柄の先端を右手の指で摘むようにして持ち、顔を仰向けて大きく口を開ける。
そして、刃を真下に向ける形で顔の上へ。
そのままゆっくり手を下ろしていくと、ナイフは口の中へと消えていった。

「わぁ、ナイフ飲んじゃった!」

手品師は観客たちに向かって両手を広げ、おどけたポーズを取る。
その後再び天を仰ぎ、口の中へと手を差し入れると、喉の奥から先程飲み込んだナイフを引っ張り出してみせた。
客席から、一斉に歓声が上がる。

「おーっ、凄~い!」
「不思議です~、どうやってるんでしょうねー!?」

よくあるナイフ飲みの手品ではあるが、ミアもミリエッタも楽しげに映像を見つめていた。
そんな2人の横で、じっとモニターに見入っていたユエが、おもむろに口を開く。

「これならユエもできるよぅ?」
「えっ…?」

ミアとミリエッタの声が重なり、2人の視線がユエへと集中する。
そんな中、ユエはガンスラッシュを取り出すと、先程手品師がやっていたように顔を仰向け、小さな口を精一杯開ける。
そしてその口の中へ、銃剣の切っ先を沈めて行くのだった。

「あーん。はむはむ、んぐんぐ……」

ただし、スルリと飲み込むのではなく、もぐもぐと咀嚼しながら。

「けふぅ。…どぉ?どぉ?」

あっという間にガンスラッシュを平らげるユエ。
そして、誇らしげな表情でミア達に向けて胸を張る。

「え、ええっと……」
「……取り出す、ところは…?」

目を丸くしたままリアクションに困るミリエッタと、律儀にツッコミを入れるミアだったが。

「食べちゃったら出てこないよ?」

ユエは当然、と言った様子で答え、得意顔を続けるのだった。



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「ワン・ツー・スリー!」

掛け声と共に、左手を覆っていた白いハンカチを取り去る手品師。
その手には、何処からともなく現れた一輪のバラが握られていた。
観客の拍手が鳴り響く中、手品師はバラを投げ捨て、もう一度左手をハンカチで包む。

「ワン・ツー・スリー!!」

白い布がはためくと、今度は渦巻き模様が描かれた円盤状の串付き飴…ペロペロキャンディが現れた。
そのまま客席へと左手を差し出し、最前列の小さな子供にキャンディをプレゼントする。
更に大きくなる拍手と、三度ハンカチに覆われる手品師の左手。

「ワン・ツー……スリーッ!!!」

一際大きな掛け声が響き、白い羽根が宙に舞う。
ハンカチの下から飛び立ったハトが、観客達の頭上で輪を描き、会場は喝采に包まれた。

「すっごい連続マジックだったねー!」
「うんうんっ、ハンカチの下から色んなものが次々と……!」

モニターの前のミアたちも、映像の中の鮮やかな手品に大興奮だ。
そんな様子を見ていたユエが、突然、凜とした表情でソファーから立ち上がる。
そして、取り出したハンカチで自身の左手を覆い隠した。

「えっ、ユエちゃん?」
「ユエも、ハンカチマジックやるの?」
「やるのです!見てて?見てて?行くよぅ~。
 わーん!つー…!」

ミアとミリエッタが見つめる中、カウントを始めるユエ。

「んぅ~~…すりーっ!!」

掛け声に合わせ、ハンカチが取り払われると。
ユエの手の中には、淡い緑色をした一本のボトルが出現していた。

「なんか出てきた!?」
「わぁ、ユエ凄いっ!けど……なんでモノメイト?」

そう、ユエの手に握られていたもの。
それは、アークスが使用する体力回復剤、モノメイトのボトルだった。

「にははん。まだまだー、だよ?」

そう言って、ユエはモノメイトを床に置き、再び左手をハンカチで覆う。

「わーーん、つーぅ…!…んん~~っ、むーっ……すりーっ!!」

やけに気合の入ったスリーカウントの後、ハンカチの下からまたしても緑色のボトルが現れる。

「今度は…ディメイト、ですね…?」
「う、うん。ハンカチマジックとしては完璧だけど…これって、もしかして…!」

確かにユエは、何も無いはずのハンカチの下から、見事に物を取り出してみせた。
だが、そのラインナップから、ミアは何かを察したようだ。

「わーんっ、つーーぅ……うーーっ…むうぅ~~~…!!」

一方、手品師がやってみせたように、3連続のマジックに挑むユエは。

「……はひゅぅ……エネルギー切れなのぅ……」

顔を真っ赤にして力んでいたと思いきや、脱力してその場にへたり込む。

「わわっ、ユエちゃん!?」
「ねぇ、ユエ……“生産デバイス/HP回復系”の酷使は、やめよ?」
「うにゅ~……」

ミアに思いっ切り種明かしをされたユエは、仰向けに倒れて目を回していた。



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「Mr.エースのマジックショーも、いよいよクライマックス!
 本日最後に見せてくれるのは、このマジックだー!!」

番組も終盤に差し掛かり、最後のパフォーマスへと突入したようだ。
司会者が声を張り上げると、ステージの脇から、台車に乗った大きな箱が現れる。
台車を押してきた手品師のアシスタントが、箱の側面を開き、空っぽの内側を観客たちアピール。
手品師は客席に向かって一礼すると、箱の中へと身を躍らせた。

締め括りに披露するのは、どうやら脱出マジックらしい。
アシスタントが箱を閉め、その周囲をチェーンでぐるぐる巻きにする。
更にそのチェーンを錠前でロックして、いかにも“脱出不可能”といった状況が完成した。

「箱の中へと閉じ込められたMr.エース!
 この状況から、一体どうするのかっ!?」

加熱する司会のトークに合わせて、今度は銀色に輝く長剣の束が運ばれてくる。
そして脱出マジックの定番どおり、アシスタントの手によって、剣が次々と箱に突き通されていった。

「Mr.エース、絶体絶命っ!彼はどうなってしまったのでしょうか!!」

司会の男が仰々しく叫ぶ中、観客達も固唾を呑んで串刺しの箱を見守る。
と、次の瞬間。
ステージの床から真っ白なスモークが噴き出し、手品師を閉じ込めた箱を覆い隠した。

突然の出来事に、客席から一斉に上がる驚愕の悲鳴。
だが、徐々にスモークが薄れていくつれ、それは感嘆の声と拍手へと変わる。
白煙の向こうには、鎖と剣によって雁字搦めにされたままの箱と。
そこから見事に脱出を果たした、手品師の姿があった。

「凄~い、あんな一瞬でどうやって……!?」
「ねー!びっくりしちゃいました……!」
「………」

手品師の絶技に沸くミアとミリエッタ。
そんな2人を他所に、ユエはキョロキョロと周囲を見渡して……
休憩スペースの隅に積まれたダン・ボウルを見つけるや否や、その中の1箱を抱えてくる。
ミアたちの目の前にダン・ボウルを置くと、ユエはその中へと飛び込んだ。

「ユエちゃん…!?」
「まさか、脱出マジックまでやるの!?」
「やるます!フタ、閉めてください?」

箱の中にちょこんと座り込んで、自分を閉じ込めるよう求めるユエ。
その瞳はやる気に満ちてキラキラと輝いており、止めても引き下がってくれそうにない。

「わ、分かったよっ。じゃあ……こう、でいいかな?」

ミアがユエの頼みを聞き、天井面の4枚の厚紙を互いに折り込ませるようにして、蓋をする。
その気になれば内側から簡単に押し開けられるような、簡易的な閉め方だ。
脱出マジックの真似事をするといっても、何の仕掛けもないダン・ボウルでは、大した事はできないはず……
そう思っていたミアたちだったが。

「それじゃ、いくよぅ~??
 せぇーのっ、大・脱・出~~~!!」

ユエの声が響くと同時に、彼女が入ったダン・ボウルが青い光を放つ。
直後、箱の蓋をすり抜けて眩い光球が飛び出すと、それは空中で巨大な白魚の姿を成した。

「きゃっ!?」
「ユエの中身が出てきちゃった…!?」

幻獣と化し、ミアたちの周囲をふよふよと飛び回るユエ。

「にははんっ。ユエのとっておきー!」

ユエの得意気な声と共に、白魚の顔の先端へと、大量のフォトンが集まっていく。

「ひっさーつ!ケートス・イメ…」
「わーっ!?ダメぇぇーーー!!」

高まるテンションのまま、凝縮フォトンレーザーを放とうとするユエを、ミア達が慌てて取り押さえるのだった。



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「はぅー…ごめんなさいなの、もうしないですよぅ……」

ごろごろとマイルームの床を転がり回る、卵型の物体。
あの後3人は、騒ぎを聞いて駆けつけてきたアークス管理官・コフィーに、こっ酷く怒られた。
特に“主犯”であるユエは、丸1日その意識を初期型マグに封じられ、自室で反省させられる事になったのだとか。

「ぅ~、退屈なの。出して欲しいのぅ……」

(おしまい)

  • 最終更新:2015-09-13 20:53:51