目が覚めたら、変わっていたんです
「はぁ…どうしてこんな事になってしまったんでしょう…」
ベッドに寝転んで天井を見つめながら、思わず独り言を呟いてしまいました。
ピンク色で統一され、ハートや星の模様があしらわれた、いかにも女の子らしい内装。
アークス用居住区の中にある、ひとつの小さな部屋。
これからボクはここに住み、アークスとして過ごす事になりました。
発行されたばかりのアークスカードを取り出して、そこに記載された登録情報を眺めてみます。
名前:シャロン
うん、間違いありません。
年齢:17
これもその通りです。
種族:キャスト
少し前までは、デューマンだったのですが。
性別:女性
………。
すべては、あの時の出来事が始まりでした。
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ボクは朦朧とする意識の中で、揺らめく炎の熱と、物の焼け焦げた臭いを感じていた。
とあるアークスシップの市街地に暮らす、ごく平凡な一般員。
そんなボクをいきなり襲い掛った、非情な運命。
まぁ、オラクル船団の中では時折発生している、ダーカーによるアークスシップへの襲撃なのだけど。
まさか、自分の身に降り掛かって来る事になるとは、考えもしなかった。
響き渡る警報の中を、必死に逃げていたのだけど……
突然の爆音と共に、ビルの壁が崩れ落ちてきて、ボクはその瓦礫の下敷きになってしまったのだった。
仰向けに倒れたまま、胸から下をコンクリートの塊に飲み込まれ、まったく身動きが取れない。
瓦礫に潰されたボクの身体はひどい有様で、真っ赤な血がどんどん溢れ出していくのが分かった。
きっと、このまま死ぬんだろう。
もう少し、生きていたかったな――
そんな事を考えていたボクの視界が、不意に翳る。
誰かが、ボクの顔を覗き込んでいる……?
だけど、既にボクの目は霞み始めていて、誰なのかはよく分からない。
「君は、助かりたい?」
次第に気が遠のいていく中、不思議とはっきり聞こえた声。
その言葉に、必死に首を縦に振る。
そして、ボクの意識は闇へと墜ちていった。
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「…ぅ……」
眩しさを感じて、うっすらと目を開ける。
昼まで惰眠を貪った休日の目覚めのような、ぼんやりとした思考の中。
ボクの目に飛び込んできたのは、見覚えのない天井だった。
……ここは……?
ボクは確か……ダーカーの襲撃に遭って、それから……。
もう助からない、ここで死ぬんだ、って思ったのに。
生きて、いる……?
身体を起こし、周囲を見渡してみる。
窓一つ無い白い壁に囲まれ、様々な機器が所狭しと並べられた部屋。
病院みたいな素っ気無いベッドの上に、手術着のようなローブを着て、ボクは横たわっていたらしい。
状況が掴めず、戸惑っていると。
「やぁ、お目覚めかい?」
突然声を掛けられて、慌ててそちらを見る。
眼鏡を掛け、白衣をまとった若い男の人が、ベッドの脇でボクを見つめていた。
「あ、あなたは…?ここは一体…?それに、ボクは瓦礫の下敷きになったはずじゃ…!?」
「まぁ、落ち着きたまえ。
僕はただのしがないドクター。ここは、僕の研究室」
焦るあまり、立て続けに質問してしまったボクをなだめるように、男の人がゆっくりと話す。
ドクターというと、お医者さんって事?
「そして君は……あのダーカー襲撃の際、たまたま通りかかった僕によって、ここに連れて来られたんだ」
それって、つまり……
「あなたが、助けてくれたんですか……?」
「そういう事になるかな」
その言葉を聞きいて、ボクは弾かれたようにお医者さんへと向き直り、頭を下げる。
「あ、ありがとうございまし……」
あ…れ……?
深々とお辞儀をした途端、ぐらりと世界が揺らぐ。
ボクはそのまま、前のめりにベッドから転がり落ちそうになった。
「おおっと」
お医者さんが抱き止めてくれたおかげで、事無きを得たけれど。
「急に動かない方が良い。
君はまだ、一月の眠りから覚め、起動したばかりなのだから」
「え……」
今、なんて?
ボクは、一ヶ月もの間、眠っていたのか?
それに……
「起動したばかり、って……?」
ボクの問いに、お医者さんは小さく一つ息を吐くと、静かに語り始めた。
「君は瀕死の状態で、普通の治療で助ける事は不可能だった。
よって、君を機械の身体に……キャストに変える事で、蘇生したのだよ」
ボクが、機械の身体に?
それじゃあ、このローブの下は……!?
衝撃の事実を聞かされて、ボクは反射的にローブの前をはだけ、自分の身体を見下ろしていた。
「……!?!?」
「あぁ、心配しなくても良い。機械の身体といっても、それは中枢の動力部分だけだ」
……どうやらボクは、裸にローブ1枚だけという格好だったらしく。
目に飛び込んできたのは、透き通るような綺麗な肌色で。
「………」
「君の身体の大半は、君の細胞から培養した特製の生体ボディを使用している」
それは、機械の身体どころか、見た目は普通の人間と何ら変わらなかった。
「…ぁ…ぅ…」
「外見上は、ヒューマンとまったく区別が付かないだろう」
だけど……
だけど。
「…ぁ…あぁ…っ……」
「君自身の細胞を用いたものだからね、移植した脳が拒絶反応を起こすことも無い」
ボクの胸にくっ付いている、この、2つの膨らみは何だろう。
「この生体ボディは、僕だけが扱える特殊な技術で造られたもので……」
お医者さんが得意げに何か語っているけれど、全然耳に入ってこない。
ボクはゆっくりと、目の前の物体に、震える手を伸ばし――
むにゅ。
「どうだい?その身体、気に入ってく」
「ふにゃああぁぁぁぁ~~~っ!?!?!?」
触れた掌から伝わる柔らかな感触と、触れられた胸から伝わる未知の感覚に、ボクの絶叫がこだました。
(続く...)
- 最終更新:2015-09-13 20:51:32