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「――と、いうわけです」
通信機越しに「あいつ」の声がする。ようやく指示の概略が済んだようだ。

「おう、一つ質問いいか?」
二の句は継がせまいと、指示を聞いていた男は尋ねる。半分以上は不満から成り立つ疑問だが。
「おや、何でしょう?」
「俺が今、どこに居るか分かってんのか?」
「ええ、勿論。
幸福の牢獄都市国家こと、パノプティコン、
でしょう?それが「何処」なのかもお教えしましょうか?」
「分かってんじゃねぇかよ…ハァ…確信犯か、面倒くせぇ…」
こちらの事情を知った上での指示であったことに、男はため息しか出なかった。

――男、迅雷は困惑していた。
資源が枯渇し、ボランティアと称した資源強奪のための戦闘行為を繰り返すこの「世界」、ここ迅雷が送り込まれてからしばらくが経っていた。その間にまあ色々面倒な出来事にも巻き込まれたが、そこに触れると話が長くなるため割愛する。
それが落ち着いてだいぶ経ったある日、何故か「地元」の住人、しかも「あいつ」から通信がかかってきた。この時点でも十二分に非日常であったが、通信機越しに語られた指示は彼を更に困惑させることとなった。
その指示とは、『「こっちの世界」に来てほしい』、というものであった――

「確信犯も何も、君をそこに送ったのは僕でしょう?どうして送り主が送り先を忘れるものですか」
「ちげぇ、そうじゃねぇ。いや半分合ってっけどそうじゃねぇ」
「じゃあなんです、何か不満でも?」
不満があれば既に言っているであろうが、それ以上に通信機の向こうの「あいつ」が、「地元」の時とと変わらない態度で接してくることに迅雷は苛立っていた。
「「そっち」には俺は一回行ってんぞ?わざわざあんたが呼び戻す理由はねぇだろうが」

実を言えば、迅雷は既に「そっちの世界」には行ったことがあり、ある程度の活動を行っていた。その上で、この通信機の向こうに居る面倒極まりない「あいつ」が「この世界」に送り出してしまっていたのだった。これが彼を苛立たせている原因の一つである。
「あぁ、そのことでしたか」
「いや、他にもあっけ―
「少しばかり、事情が変わりまして」
―…あ?」
「まぁ、もっとも僕が少し首を突っ込みすぎたというのもー…」
言葉を遮ったかと思えば、急に歯切れが悪くなった。
「あ?何しでかしたんよ?」
「…あぁ、いえ別に?」
「ッ…そのパターンだとそれ以上口割らんな、面倒くせぇ…」

迅雷の経験則から、基本、「あいつ」が何でもない素振りを見せた場合、なにか企んでいることがほとんどだ。だが、これはそれ以上の詮索をさせてくれない合図でもあった。それを察する事ができるようになってしまったのも、「あいつ」が原因な訳だが。

「流石、理解が早い」
「褒められても嬉しくねぇ…で、だ、何時動きゃあいい?」
「…明日ですかね?」
「えっ」
「明日にしましょう、それがいい」
「マジか、猶予期間皆無じゃねぇか」
「その方が気が楽でしょう?次の日にはもう「こっち」に着いているんですから」
突拍子のない発言と出来事の連続に迅雷は、
「…分かった、好きにしてくれや面倒くせぇ…」
「あぁ、あと向こうに着いたら連絡をお願いしますね、部隊の―」ブツッ
諦めと呆れを含めた捨て台詞と共に通信を一方的に切り、眠りにつくことにした。

翌日。迅雷は人気のない薄暗いところで佇んでいた。その手には、「この世界」のものとは明らかに違う材質、形状の物体が握られていた。
「確かに、『好きにしてくれ』とは言ったが、まっさか自分で来させるようにするとはねぇ…面倒くせぇたらねぇな、ほんと」
誰に聞かせるわけでもなく、一人延々と愚痴をこぼしていく。そして、気が済んだのか迅雷は、
「んー、どう使うんだったかコレ…おらよっ、と…あぁ、開いたな」
その手に持っていたものを地面に叩きつけ、この「世界」を後にした。

――その後、彼がどんな事になったかは、C小隊メンバーと「あいつ」のみ知る事となる。

【…つまり、どうゆうこと?】


  • 最終更新:2015-09-13 20:48:11

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